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ジュサラの持続的生産を〜セ・バーラス森林農法プロジェクト〜(下)=「夢では終わらせない」=環境保護と村の発展めざし

ニッケイ新聞 2012年8月15日付け

 元企業家のジルベルトさんは、農家に転身して10年余り。「環境に良い影響を与えるアグロフォレストリーの概念そのものが素晴らしく、自分は魅了されている。政府からもっと支援があるべき」と熱を込める。
 しかし、同区でアグロフォレストリーに取り組んでいるのは、ジルベルトさんを含む2、3人。多くはバナナ栽培に従事し、住民の間で広がっていないのが現状だ。
 「ここの人々の生活は決して楽ではない。(パルミットの)素晴らしい代替策となりうる、非常に良いプロジェクト」と喜ぶのは、一行が2日目に訪れたリオ・プレット区在住のジェラルド・フランシスコ・デ・アギアールさん(57)だ。
 一行を歓迎しつつも、「グァピルヴーには比較的日系人がいるが、ここは非日系人ばかり。まずは教育から始める必要がある」と懸念を示す。
 「夢だけで終わらせず、収入を確保することが不可欠」(ジェラルドさん)。アグロフォレストリーの研究者や学生、観光客などを受け入れるポウザーダを設置したり、女性達が手工芸品の販売などを行うことで、住民の生活向上を包括的に図ることがねらいだ。
 約50年同区に住み、アグロフォレストリーに取り組む村長のオリンピオ・ローザ・ダ・シルバさん(77)は、自身のバナナ園でコーヒー、レモンなど約10種を混植している。
 同区は人口約300人。バナナや米、フェイジョンなどを栽培しているが、パルミット収穫で生計を立てる人も多いという。「全く新しいことだから、色々と考えながら進めていかないと。でもうまくいくことを願っている」と前向きだ。
 一行はプロジェクトの成功を祈り、ジュサーラとコーヒーの苗30本ずつを記念植樹した。
 プロジェクトはもともと、トメアスーのアグロフォレストリーについて研究していた東京農業工業大学大学院講師、山田祐彰さん(48、茨城)の提案によるものだ。「セッテ・バーラスの人々の率先的行動に期待したい」と山田さんはいう。
 説明によればこのプロジェクトは、実施にあたりトメアスーや近隣日系コロニアの経験を活かすだけでなく、トメアスーがセッテ・バーラス、海岸山脈地域での河畔林再生メカニズムを学ぶ、という相互交流・協力を行うことに意義があるという。
 既にJICAブラジル事務所によってトメアスーとセッテ・バーラスの3人ずつの相互訪問が実施されている。山田さんによればパラー州では河畔林保全はないに等しく、「農牧畜開発の環境への影響は最近になって意識され始めており、サンパウロの先例に学ぶべきことは多い」という。
 トメアスーの遷移型アグロフォレストリーは伯政府から社会技術として認定されたものの、他地域への技術移転のためには定義づけを整備する必要がある。その意味でも、良い機会になると山田さんはみている。
 「最も重要なのは家族農業経営の持続性の担保。その結果として木の多い環境にやさしい畑が作られるということで、この優先順位は逆にならない」(山田さん)。
 解決すべき問題は多々あるが、この地域の人々がジュサラ、コーヒー、バナナを主体としたアグロフォレストリーで安定して収入を得られるようになり、ジュサラの残る緑豊かな農場を広げるための試行錯誤が始まったようだ。(終わり、田中詩穂記者)

写真=リオ・プレットの自治会館前で。一行と住民の皆さん