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カヴァルカンチの名画焼失=ブラジル現代芸術の象徴的作品=リオ名物画商の自宅火事で

ニッケイ新聞 2012年8月16日付け

 13日にリオの画商の家で火事があり、ブラジル現代芸術の祖として知られるディ・カヴァルカンチの名画など、貴重な文化財が失われた。15日伯字紙が報じている。
 13日夜、リオ南部コパカバーナのバラタ・リベイロ通りにある画商ジャン・ボジッシさん(84)のアパートで火事が起きた。ボジッシさんの娘の話によると、火はアパートの一室の空調器から出たといい、消防は火事の原因は電気回路の短絡(ショート)とみて調べている。
 この火事で、ボジッシさんが自宅に所有していた100を超える芸術作品のうちのいくつかが焼失または損傷した。その中には「ブラジル現代芸術の祖」と呼ばれるディ・カヴァルカンチの「サンバ」やギグナルドの「熱帯の花」といったブラジル美術を代表する作品が含まれていた。
 ボジッシさんはルーマニア出身で、1949年からリオに移り住み、ブラジルの画商の草分けとして60年あまりの実績を築いてきた。ブラジルの芸術作品を広く紹介する運動の推進家としても著名で、抽象彫刻家のマリア・マルチンズ、抽象画家のアントニオ・ディアスなどを紹介、50年代のリオで起きた新現代芸術運動(ネオコンクレチズモ)の代表的芸術家リジア・クラークのかつての恋人としても知られている。
 ボジッシさんが14日に行った会見によると、これらの芸術家の作品もいくつか損傷を受けたが多くは無事で、損傷も修復可能な範囲だという。また、ブラジルで高い人気を誇る女性画家タルシラ・ド・アマラルの「夢」「沈む太陽」「9番目の橋」などの名画も無事だったという。
 既にリオ南部に自身の名を冠したギャラリーを持つボジッシさんは、海岸部のマウア公園に9月に開設されるリオ美術館(MAR)でこれまで集めて来た作品の展示会を行う予定だ。今回の火事で大きな損失を負ったボジッシさんだが、展示会は「予定通り11月15日に開催する」と力強く宣言。ボジッシさんは、1978年にもリオ近代美術館(MAM)で起きた火事で作品を焼失したことがある。
 今回の火事では、特にディ・カヴァルカンチの「サンバ」の焼失を専門家たちが嘆いている。カヴァルカンチは1922年2月に開催され、「ブラジル芸術が独自性を持つ契機となった」と称される芸術祭「現代芸術週間」の発起人の1人。アニータ・マルファッチらと共にブラジルの現代絵画を牽引した人物で、25年制作の「サンバ」は最大の代表作だ。「20年代のブラジルの芸術運動の作品の中で最もブラジル文化そのものを描ききった作品」としてその文化意義の評価が高く、「値段をつけられる次元の作品ではない」と語る声も少なくない。