ニッケイ新聞 2012年8月16日付け
美談といってもいいだろう。「いい話だなあ」と久々に感じ入った記事だった。「コロニアに恩返しを」と見出しをつけた里帰り訪日団の記事だ(15日付け)。海外日系人協会とサンパウロ新聞の共催事業だが、出資者はかつての同紙研修記者。本事業に1千万円を出資する▼その篤志家とは、運送会社を経営する竹内政司さん(57、東京)。1977年から約2年半、コロニアを取材したおり、一世に世話になったという。折りしも〃一世主導最後の式典〃と言われた移民70周年祭も重なった。ご本人いわく、「地鳴りがするような」活気を見せていたという。コラム子がタイムスリップしたい時代の一つだ▼サンパウロ新聞の鈴木雅夫社長が「今後を考えて若い世代の人材交流をしては」と提案したところ、言下に返した「私がしたいのは、お世話になった移住者に対する恩返しだ」との強い思いで企画が決まったという▼移住後一度も帰国しておらず、来伯から約50年経過しており、経済的に逼迫していることが条件。周りを見渡しても、一度もーという人は少ない。帰れても帰らない何かの理由があるのではないか。もしくは日本統治下にあった満州や朝鮮で生まれ育ち「日本はブラジルまでの経由地。いい思い出がない」という人もいる▼同企画は来年の戦後移住60周年を記念したものだが、当地で何か記念事業の動きは全く聞かない。50周年祭は戦後移民の底力を見せてもらったものだが…ともあれ。竹内氏の男気に大きな拍手を送りたい。来年、祖国の地を踏むであろう移住者の言葉にも耳を傾けたい。(剛)