ニッケイ新聞 2012年8月21日付け
米国やロシアを襲った干ばつの影響で、世界的な穀物価格の上昇が懸念される中、ブラジルでも、餌となるトウモロコシや大豆の値上がりによる鶏肉価格の上昇が始まったと18日付エスタード紙が報じた。
トウモロコシの3大輸出国である米国が作付面積の9割で影響が出るほどの歴史的な干ばつに襲われ、同様に被害を受けた大豆共々、世界の穀物生産10%減という深刻な事態を招いている。
トウモロコシの生産量が全世界の23%を占める米国の凶作は、当然ながら世界的な食糧危機につながりかねず、国連食糧農業機関が、同国にトウモロコシを原料とするエタノール生産計画見直しを求めた事は10日付伯字紙が報じた。
米国のエタノール生産は7月から8月に8%減少、年末にかけては最低12%減産との予想は19日付エスタード紙も報じており、食糧確保やバイオ燃料生産に影響が出ている事は明らかだ。
一方、米国、アルゼンチンと共にトウモロコシ輸出の要の役割を担うブラジルでは、年頭の南伯の干ばつ後は予想以上の回復で、大豆の収穫後に植える冬のトウモロコシの収穫が例年を71%上回る3850万トンと記録的な伸びを記録。年間の収量も1億6592万トンに達する見込みだ。
米国の干ばつによるブラジルの比重拡大は大豆でも同様で、好調な収穫の伸びに加え、生産農家は一様に作付面積拡大中。連邦公務員やトラック運転手のストなどで穀物輸送が麻痺したために倉庫が足りず、収穫後の穀物が野ざらしとなっている地域さえあるという。
他方、国際的な価格上昇で、トウモロコシはここ1カ月で30%、大豆も同100%値上がり。これにより、鶏や豚の飼料価格も上昇中で、鶏肉生産者は生産コストの60%を占める餌の主材料であるトウモロコシや大豆の値上がりを鶏肉価格に転嫁せざるを得ない。8月第2週の鶏肉価格は4週間前の3・3%高。8月第1週は1・38%高だった事から見て、飼料高騰の影響が徐々に出始めている事は明らか。サンタカタリーナ州では餌不足や経費高騰を苦にした生産者が、11万4千羽のひよこを生き埋めにする事件も起きた。
米国の干ばつによるトウモロコシや大豆の減産にロシアの小麦減産などで、世界的な食糧価格は6%上昇との報道は10日付エスタード紙。ブラジルの穀物収量新記録と同じ日の報道だったのは皮肉だが、ブラジル政府は11日に今年のインフレは目標の4・5%を大幅に上回るとの予測を発表。15日付フォーリャ紙には、豚肉や鶏肉は10%程度値上がりするはずとの予想も掲載された。
2011年は765億ドル売り上げた米国のトウモロコシが過去6年で最悪、大豆も過去5年で最悪の収量という中、ブラジル農家が作付面積や収量拡大による増収見込みに沸く一方で、国民はインフレの影に脅かされる状況に追い込まれている。