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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2012年8月31日付け

 4月8日付けエスタード紙には「旧ナチス党コロニアが解体へ」との記事が出ていた。サンパウロ市から260キロのパラナパネマ市にあるその南十字星農場は、ブラジル統合行動(AIB)というファシズム運動の信奉者によって1930年に購入され、リオの孤児院から連れてきた子供50人を〃奴隷労働〃させた場所と報じられている。名前の代わりに番号で呼ばれ、ナチス式の儀式を強制されたという▼これを読んで一種の「レーベンスボルン」だとピンときた。ナチス福祉局は34年、ドイツ民族の人口増加と「純血性」の確保を目指して孤児や母子を集めた特殊な福祉施設を作った。これに触発されて小説『ソフィーの選択』、漫画『MONSTAR』が発表されている▼SF小説『ブラジルから来た少年』では、アウシュビッツで人体実験を繰り返した〃死の天使〃ヨセフ・メンゲレ博士まで登場する。戦後、当地に逃亡潜伏し一ドイツ移民としてベルチオーガで死んだ▼37年にバルガス新国家体制が始まると同農場の子供たちは解放された。戦後たまたまそこを買った人が豚舎を壊していたら鉤十字マーク入りのレンガを見つけて驚き、専門家に調査依頼したことから判明した▼当地は30年代、ドイツ以外で最多のナチス党員を誇った。特に南部ではドイツ移民が孤立した環境で植民地を形成し、ドイツ語しかしゃべれない子供がかなりいたという▼同農場所有者が市に「史跡として買上げるか」と相談したが断られ、サトウキビを植え付けることにした。おりしも映画『汚れた心』が上映中だが、なぜドイツ移民でなく日本移民が選ばれたのか、それ自体が興味深い。(深)