ニッケイ新聞 2012年9月15日付け
民主党政権の「脱官僚依存」の象徴として民間から起用された丹羽宇一朗駐中国大使は、石原都知事の尖閣諸島の買収計画を批判するなどの失言が続き、政府も更迭の方針を固め先の11日には西宮伸一外務審議官を後任に決めたばかりだが、—その西宮氏が東京の自宅近くの路上に倒れているのが見つかった。意識不明であり病院に搬送されたが、警察の調べでは事件性は薄いとし、病気が原因ではないかと見ている▼藤崎一郎駐米大使の後任には佐々江賢一郎外務事務次官を抜擢するなど大幅な人事異動を決め「外交の一新」を狙った矢先の事故であり、政府も外務省も頭が痛い。と、こんなことを書くのもリビアの米領事館で暴徒らに襲われ殺害されたスティーブンズ大使が、国務省切っての中東外交のホープであり、省内には「惜しむ声」が満ちているそうだ。このリビアやエジプトで起こった市民暴動は、アメリカで製作された反イスラム映画への抗議が原因だが、いかなる理由があろうとも、大使館や領事館に乱入し殺人まで犯すのは許されない▼しかも、この抗議行動はイスラム圏8カ国に広がりイランやモロッコなどでも反米デモが起きている。勿論、このムハンマドを女好きに描き侮蔑した映像は批判されても致し方ない。アメリカにはコーランに火をつけ燃やす牧師もいるし、英作家の「悪魔の詩」を邦訳した筑波大学の助教授が殺されもした▼こんな不祥事もアルカイダなどへの反発が引き金になっているのだろうが、こうした対立もあの十字軍のような「宗教戦争」にまで発展させてはなるまい。ここは何よりも自粛を—。(遯)