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進路に悩むブラジル人学校子弟=両国社会の歪み集中か=「将来分からない」38%=「ブラジル人の子孫」の時代に

ニッケイ新聞 2012年9月19日付け

 文化教育連帯協会のカエル・プロジェクト(調整役=中川郷子)が主催する「経済危機と帰国するデカセギに関するセミナー」(ブラジル三井物産基金協賛)が1日に文協貴賓室で開催され、約50人が聞き入り熱心な質疑応答が行なわれた。在日ブラジル人子弟の中でも、特にブラジル人学校に通う子供は将来に深刻な悩みを抱えており、両国の歪みが集中する構図になっている様子が伺われた。

 「かつてデセンデンチ・デ・ジャポネーゼス(日本人の子孫)と言っていましたが、現在はデセンデンチ・デ・ブラジレイロス(ブラジル人の子孫)と言われる時代になりました」。開幕講演でリオ州立大学の佐々木エリザ教授は、そう在日ブラジル人社会を特徴付けた。
 08年に在日外国人は約208万人いたが、金融危機後に14万人が減り、うち10万人がブラジル人だったとの発表があった。それに対し、「なぜブラジル人ばかり帰ってきたのか」との質問が出され、佐々木教授は「金融危機は自動車産業などブラジル人が主に支えている産業を直撃したからでは。あとBRICsの一国としてブラジルが好景気だったので戻る志向が強く働いたのでは」とし、今も〃景気の調整弁〃役を担わされていることを伺わせた。
 それに加え、中川調整役は「ブラジル人が減った分、フィリピン人、ベトナム人、インドネシア人などの研修生が増えた。外国人が減ったというより、入れ替わった印象が強い」と説明した。
 佐々木教授は在日ブラジル人の人口構成の変遷を見せ、金融危機前の07年と危機後の11年の年齢層別人口を比較した。最も人数が激減した年齢層は働き盛りの20代(41%減)で、次いで30〜40代(37%減)。逆に学齢期は10〜19歳(13%減)、高齢者は60歳以上(1%減)と減少率が少ない。つまり、就労者本人を中心に帰伯し、実は子供と親は残っている様が示された。
 愛知教育大学の二井(にい)紀美子准教授は、愛知県が作成した外国人子弟向けの『進路応援ガイドブック』に掲載されたアンケートを紹介した。県内の797人のブラジル人子弟とその保護者から回答をえた結果、若年者ほど日本生まれの比率が高く、中学生ではほぼ半数を占めることがわかった。
 「将来日本で生活したいですか」との質問に、日本の中学校や高校に通うブラジル人子弟の67%が「はい」と答えたが、ブラジル人学校高等部は8%と低かった。「どこの国で働きたいですか」との質問に、日本の高校は60%が「日本」、19%が「わからない」だったが、ブラジル人学校高等部では「日本」が5%、「ブラジル」「わからない」がそれぞれ38%を占め8割近くとなった。日本で人格成長期を過ごした彼らとってブラジルはよく知らない〃祖国〃であり、進路に深刻な不安を抱えているようだ。
 中川調整役はブラジル人学校生徒数の変遷を表した「危機の地震と不就学の津波」グラフを示し、危機前の08年6月には47校合わせて1万1429人いた生徒が、11年12月現在で4216人と3分の1近くまで落ち込んでいる様子を明らかにした。
 連帯協会の吉岡黎明会長は「ブラジル人学校の管理責任は本来MEC(ブラジル文化省)にあるが、国内の公立学校すらあるべき状態ではない。そんな中で、日本のブラジル人学校まで手が届かない」と分析し、両国の社会状況の狭間でデカセギ子弟に歪みが集中し、結果的に教育放棄されている現状を憂いた。
 その後、同協会が運営する帰伯労働者情報支援センター(NIATRE)の活動の現状、カエル・プロジェクトの成果が発表され、帰伯者本人も混じって切実な質疑応答が行なわれた。