ニッケイ新聞 2012年9月21日付け
椰子樹社(上妻博彦代表)とニッケイ新聞が共催する第64回全伯短歌大会が16日、文協ビル内のエスペランサ婦人会サロンで開催された。人数こそ約40人と少なめだったが、参加者各人の意気込みは強く、質の高い大会となったようだ。
■互選高得点歌■
◎ 一位
(二六票) 上田幸音 病癒え歌詠むよろこび残されてしわ深き手にペンを持ちおり ◎ 二位
(二五票) 信太千恵子 住む家を吾娘の名義に切り替えて夜の静かな雨音を聞く ◎ 三位
(二四票) 青柳ます 結婚の指輪などなき時代にて信じ合いつつダイア婚来る ◎ 四位
(二〇票) 小野寺郁子 かたちなき形見と胸に反芻すある日の父の警句のひと言 右同 小池みさこ 諍いてむっつりといるつれ合いに熱きうどんの夕餉つくりぬ ◎ 六位
(一九票) 野口民恵 喜びをひとつひとつに包みこみ子の好物の昆布巻きを煮る ◎ 七位
(一八票) 井上富美子 ひと言の友のねぎらい胸をうち悩みしことも薄らぎてゆく ◎ 八位
(一七票) 青柳房治 酌み交わす同期の集い肩書きは問わず語らず安らぎながら 右同 阿部玲子 中年となりたる子等が集い来てすきやき囲む今日は母の日 ◎ 一〇位
(一六票) 奥山孝太郎 騎手となり日系挑みしセラードは今は五穀の波打つ大地 ◎ 一一位
(一四票) 富樫苓子 ただ勘でミシンの針に糸通し縫えるを今日の喜びとなす ◎ 一二位
(一三票) 神林義明 青春を原始の森の開拓に捧げ悔い無し老顔の笑む 右同 西田雅子 クリームを多めにつけてしわのばし鏡に見入る今日は母の日 右同 木村 衛 ゆとりある暮しを望む日々なれば歌詠む人らと集うは楽し 右同 山岡樹代子 終にポ語解せぬままに根を下ろすここブラジルに曾孫相次ぐ ◎ 一六位
(一二票) 新井知里 ブラジルに暮らし続けて半世紀桜もイペーもそれぞれ愛し 右同 酒井祥造 若ければの思いはあれど耕しのつつが無き身の明け暮れを謝す 右同 崎山美知子 みどり濃き樹々の中より流れ来る耳にすがしきせせらぎの音 右同 崎山美知子 それぞれに夢を語りて孫達が長生きせよとわれの手握る ◎ 二〇位
(一一票) 三宮行功 今は亡き友等が便り処しかねていくたび納む片付けのあと 右同 上妻泰子 今は子に助けられいて成る生活一途に生ききし農の日は夢 右同 青柳ます 訪日し父母の墓前に佇ちし息子(こ)はそよ吹く微風(かぜ)にも涙せしとぞ (一〇票) 小坂正光 六十年苦楽を共にせし妻に日々健やかに生きよと願う 右同 三宮正功 人の世の常ならざるはうべなえど幼娘逝かせし悔いの去らざる 右同 酒井祥造 老ゆれども今が倖せ文通す歌詠友の幾人か居て 右同 梅崎嘉明 ひたすらに歩みつつ来て憩う園まだら木洩れ日背(せな)にぬくとし 右同 武井 貢 杖曳けばみんな優しいこの国にこの身をゆだねパモーニャを剥く (九票) 新井知里 待つことは嬉しきものよ水をやるさし木の紫陽花青き芽をふく 右同 小坂正光 今は亡き友等が便り処しかねていくたび納む片付けのあと 右同 上妻博彦 肌色の多彩なくにに住みふりて日系人の美女も増えたり 右同 高橋暎子 逝きし娘の宝石箱より出でて来ぬ幼時に受けし褒章メダル (八票) 小濃芳子 パスコアもすぎてさし込む秋の夜の月の光の夜の青く澄みたり 右同 白髭ちよ 見も知らぬ人達なれど短歌を詠む人等は凡て友と思えり 右同 真藤浩子 火焔樹の落花は歩道を敷き詰めてなお鮮烈に息づくごとし 右同 三宮藤子 知り人の絶えしふる里侘びしかり墓所に詣でば孤独そいくる (7票) 島田喜久枝 海が好き潮の匂いも波音も心ゆたかに砂浜を行く 右同 青柳房次 口笛を吹けば遥かに青春の血がかえりくる老いにもめげず 右同 内谷美保 「じいちゃん」と呼ばれ初孫だく夫のどこか笑顔がくすぐったそう 右同 岡田 幸 産院に孫を見舞いて初曾孫宝の如く拝み抱きとる 右同 尾崎都貴子 たまゆらのわが人生もあとわずか露をふふみてシクラメンの咲く 右同 川上美枝 カンテラのかすかな明かりに父母を恋う若く貧しい移民の日ありき 右同 早川量通 「悪かった」と素直に言えぬ一言にこだわり続け妻と真対う 右同 金谷はるみ 「ナニシテル」幼き孫が問いかけるあなたと居る幸かみしめてるの 右同 宮城あきら 明日みえぬ政治のゆくえ原発の「終息」宣言真に受け難く 右同 久保昌子 ゆっくりと朝日射しくるベランダに座して今日は動きたくなし 右同 寺尾芳子 世の人の果てなき願い聞きながら阿弥陀如来の眼差し穏し (六票) 高橋勇三 大工等の声はずみつつこもごもに垂木打つ音空にひびかう 右同 平間浩二 片想い淡き面影霧の如今追憶に秋ぞ更けゆく 右同 立花 操 ブラジルを第二の祖国と思いおり平和な国ぞこの大陸葉 右同 武田知子 二枚にて生き居し貝の一つ殻桜色して残るなぎさに 右同 尾山峯雄 アザレアの一鉢部屋に加わりて香りひろがる今日母の日 右同 原 君子 年ねんにじわりじわりと攻めてくる老化を防ぐ砦はあらず 右同 内谷美保 天高くなりゆく季節がやって来た私のすきな洗濯日和 右同 安良田 済 二羽のはと塀に並びて見つめおり狭庭をめぐる予後の吾妻を 右同 猪俣靖子 夜も昼も辞典と神とボールペン掛けがえもなき友の如くに (五票) 川上淳子 掌の平で豆腐を切るをこわがりし混血孫も今はなれきし 右同 杉田征子 冬至かぼちゃの小豆炊きつつあした会う母に聞くことあれこれ思う 右同 井本 格 子は育ち母は窓辺にひじをおきむかし話のあとのうたたね 右同 尾崎都貴子 天国へいつ召さるる身か酸素吸入しつつテレビに相撲見ており 右同 松村光江 巣立ちのおそい吾子らとその日まで夏の終わりの風に夢見る 右同 野村 康 母子して受洗者なれど姑の日は南無阿弥陀仏のお西に修す 右同 金谷はるみ 秋立つ日ブラジルの空高く澄みなお青深く露草の咲く 右同 真藤浩子 補聴器をつけても友は浮かぬ顔聴きとりがたしと若き日を恋う 右同 山岡秋雄 慰霊祭拓魂しのぶ焼香の百四回に香りただよう 右同 久保昌子 朝霧の薄れゆく中に浮かびくるアウラカリアの美しき森 右同 井上富美子 ハイビスカス人種の坩堝とう国に赤白黄色誇らげに咲く 右同 藤田朝日子 一本のロウソクの灯りに食事終え停電の夜をすべなく眠る (四票) 小濃芳子 秋風に空澄み渡りクワレズマの花咲く国に五十年住む 右同 島田喜久枝 残されしガラクタ片づけ身も軽く一人ぐらしに秋深みゆく 右同 立花 操 靖国の神社の森に木々数多手ふれて願う国の安泰 右同 上岡寿美子 真向かいのカンタレーラの山なみに夕日は赤く燃えて入りゆく 右同 井本司都子 カーテンの窓に射しそむ朝の光生きてる喜び思うひと時 右同 坂田栄子 声澄な朝にふたつのアドバルーン空に二つの句読点となる 右同 坂田栄子 朝まだき窓を開ければ月光の冴えわたりたる街のしじまに (四票) 野村 康 酒好きの夫に習いし黒田節「此処は力めよ」の箇所忘られず 右同 高橋暎子 あなうらに伝いくる冷気朝露にわが労働靴の濡れゆく晩秋 右同 遠藤美保子 夢の旅銀河鉄道かぐや姫宇宙ステーションに今人の住む 右同 上田幸音 おだやかな冬日を浴びて佇めば木立の小鳥しきりさえずる 右同 寺尾芳子 五台山に梅花黄蓮(ばいかおうれん)咲き初むと南国土佐に春来るニュース 右同 富樫苓子 四十歳の時にもうけし末娘今われの良き友となりいる 右同 酒井文子 工事現場の人夫ら唄うカンソンの哀愁の歌立ちどまりきく 右同 酒井文子 福伯の歌会に向かう道の辺に新戸部菊さく黄金の色に 右同 筒井あつし 金婚を祝(ほ)ぐが如くに生(あ)れし児よ二人で育てし孫の血をうけ (三票) 高橋勇三 明けやらぬ菜園いまだ暗けれど谷間の向かい窓の灯ともる 右同 上妻博彦 鳥かごを木陰につるし朝刊を立ち読む男小鳥鳴かせて 右同 神林義明 灯台の螺旋階段幼らと追い立てながらおいたてられて 右同 古山孝子 会場に軍艦マーチひびきいて郷愁さそう運動会なり 右同 古山孝子 椰子樹誌の短歌(うた)を読みつつ友どちの暮らしや真情しのびておりぬ 右同 尾山峯雄 春弥生われ垂らちねの態胎を出て八十年歩めり遥かな旅路 右同 西田雅子 明け方の雨も上がりて街路樹は雨のしずくに朝日が光る 右同 原 君子 吾が事と「酔生夢死」の記事を読み日記に貼りて折々に見る 右同 岡田 幸 息(こ)ら孫ら全員大卒わが願いかないて老後心安らぐ 右同 川上定子 逢う度に背丈伸ぶ孫縮む祖母変わらぬものは年玉の額 右同 山岡樹代子 気まぐれな天気の続く秋も過ぎ余命幾許冬に入りゆく 右同 宮城あきら 流されし高田松原荒れし浜はるか聞こゆる啄木の歌 右同 奥山孝太郎 捨てられし国道べりに主を待つ話題となりし黒き牝犬 右同 山岡秋雄 サンパウロ市にて大正生まれの移民逝きブラジル人僧侶仏事いとなむ 右同 猪俣靖子 果てのある命思わず今日も又望みにまむかいひたすら歩む 右同 多田邦治 葉を落とし花待つばかり桜木の細き枝にも冬の陽は光(て)る 右同 筒井あつし 喜寿金婚かさなる二千一二年寄り添くれし妻は老いたり (三票) 中野豊子 藤色にけぶりて立てるジャカランダの花びら拾う独りの真昼 右同 平間浩二 初恋の淡き面影眼裏に儚き虹の秋ぞ暮れゆく 右同 信太千恵子 花祭りみやげの芋の芽吹きいて次々と咲くダリア顕たしむ 右同 上妻泰子 帰りゆきし娘が買いくれしガーベラが明るい朱色で我を励ます 右同 外山安津子 錦繍の心の奥の曼珠沙華燃え命の果つる日までも 右同 武田知子 かりそめの世に長居して原発に記憶の襞にきのこ雲立ち 右同 西尾章子 片言のポ語で紡ぎしアミザーデ思いもかけぬ我が誕生日 右同 上岡寿美子 垣に這うへちまの花はうつくしと書きたるノートは黄いばみていたり 右同 井本司都子 早咲きのフロール・デ・マイオ机に置きて近づく五月をはずみて待ちおり (二票) 栗山平四郎 ゆずり合う気持ち第一運転者歩行者共に我(が)をはるなかれ 右同 阿部玲子 踏みしめて遺跡をたどる延々と続く万里の長城の道 右同 梅崎嘉明 人生は努力と励み来たりしがまだ至り得ず夕茜雲 右同 井本 格 行く先に希望があるからつかれない今は言えない遠くにいるから 右同 浦野マルガリーダ あまりにも多き強盗の恐怖にて今日も無事にと神に合掌す 右同 松村光江 新年はあの雨こえてグッドニュース生まれくる初孫希望の光 右同 川上定子 濯ぎものはためく狭庭に幼孫相手に老婆の童歌 右同 川上美枝 老いぬれば過去も未来もぼうぼうと祈りの如く歌詠みており 右同 木村 衛 テレビ観て歌に合わせて踊り出すお茶目な孫はいたずらも好き 右同 鳥越歌子 吾が余生幾許もなけれども演歌うたいたのしく生きる 右同 高橋よしみ 母国をいざ訪いゆきて登らむかスカイツリーは帰心をそそる 右同 白髭ちよ 都会(まち)に住む妹に見せたきイッペーの黄下に立てば花降りかかる 右同 滝谷久子 夜空にも大事あるらし雲走る高見の星はまなここらして 右同 谷口範之 一度来し遠住む幼の透る声電話の向こうで「ジイチャン」と呼ぶ 右同 小池みさこ 豊かなる才のあらねばひたすらに続け来しわが歌詠むことも 右同 三宮藤子 憂し日にも心いやさる紅椿花の命の語りくるかに 右同 梶田きよ お茶となるさだめを知らぬ十薬はぐんぐん伸びる緑さやかに (一票) 外山安津子 ビルの窓夕陽は赤く心まで染めて故郷の空に重ねる 右同 川上淳子 貼る浅し枯木に見ゆる牡丹の木赤き芽を吹き健在の証し 右同 浦野マルガリーダ アボガドにみかん鈴なりにして今亡き夫に感謝を込めて 右同 早川量通 乳癌を父に告げるも「大丈夫」娘は殊更に声の明るき 右同 瀬尾正弘 敬老会赤いリボンで胸熱し今年は三度目ネクタイしめて 右同 高橋よしみ 星雲を貫き昇る炎都なりて日田究めゆく宇宙への道 右同 滝谷久子 風に乗り飛びたち根づきし百日草揺れ踊りおり庭を占拠し 右同 谷口範之 久々の幼は含蓄みすこし笑み「ジイチャンキタ」と母を見上げる 右同 野口民恵 肩寄せて歩みゆきたる回想にモノクロの中母の微笑む 右同 広川和子 わが勢子とラブラドールと睦む日よ花野の果てまで伴に行かまし 右同 広川和子 日本には子らもあれど遠国(とつくに)の大地に憩はむ君あればこそ 右同 梶田きよ 満開のカニサボテンに問われいる二十首詠の推敲如何にと 右同 金城ヤス子 イタイプーへ我が子等共に行きし日々甦りたる沖縄のダム 右同 金城ヤス子 電力を使いすぎてるこの頃の我が営みを顧みている 右同 中野豊子 我を見る片羽上げて鳥の目はさいご来たりとひたと動かず 右同 藤田朝日子 一本のロウソクの灯りに食事終え停電の夜をすべなく眠る
■題詠高得点歌■
◎ 一位 ブラジルに夢をもたらす五輪祭未来にはばたけ若き力よ 木村 衛 ◎ 二位 四年先のリオの五輪を語る友黙しつつ聞く卒寿の吾は 梅崎嘉明 ◎ 三位 青空がリオまで続けと思うなりロンドンの五輪終わる夏の日 多田邦治 ◎ 四位 治安良くなるを信じてブラジルに五輪の旗のひらめくを願う 原 君子 ◎ 五位 遠き日に五輪夢みて陸上に励みし競技今孫励む 立花 操 ◎ 六位 農にきたえし褐色の手が打つ拍手五輪をふたつの国に応援 高橋暎子 ◎ 七位 国を挙げて初めて開く大競技待たるる世紀の五輪大会 藤田朝日子 ◎ 八位 ブラジルの五輪開催鳩が舞う平和の願い世界はひとつ 早川量通 ◎ 九位 五輪に出る目的めざし少年は暗い街路をひたすら走る 酒井文子 ◎ 一〇位 ブラジルはパラリンピックで頼もしい金メダルで光る笑顔で光る 作者不明 ◎ 一一位 住み慣れし第二の故郷ブラジルの五輪の祭り世界の美港 平間浩二 ◎ 一二位 トルコにて始まるチェスのオリンピック二十歳の孫は自信持ち発つ 青柳ます ◎ 十三位 不自由なからだの人々がんばるをテレビに見つつ思わずさするわが足 井本司都子 ◎ 十四位 ブラジルのオリンピックに来ると言う幼な馴染みの日本の友 内谷美保 ◎ 十五位 オリンピック・リオに決まりし瞬間に流した涙今も忘れじ 新井知里 ◎ 十六位 空は澄みオリンピックの会場にブラジル国旗は高くはためく 谷口範之 ◎ 十七位 南国に人つどいきて血を燃やす吾が身に近き五輪待たれる 滝谷久子
■「独楽吟」高得点歌■
◎ 一位 迎え撃つ二百の戦車今日までの命と覚悟せし二十の心 谷口範之 ◎ 二位 若き日にかけたる夢のいくつかを果たし安らぐ卒寿の心 原君子 ◎ 三位 泣く母の涙に吾も涙して移民して来し一五の心 青柳ます ◎ 四位 大宮の見沼の岸に絵をかきつ夢多かりし一五の心 滝谷久子 ◎ 五位 生臭きことも濾過され頭髪は白さ増すばかりの八十の心 青柳房次 ◎ 六位 若葉かおる園の小路を君とゆけば夢のひろがる一九の心 阿部玲子 ◎ 七位 故里をすてていできし長子われ亡き父母しのぶ八十路の心 上妻博彦 ◎ 八位 イグアスの滝見の旅に娘と来たり滝に吸われし八十の心 寺尾芳子 ◎ 九位 文学者になりたく思いカンテラの下で学びし一五の心 藤田朝日子 ◎ 一〇位 コロノ期の郷愁つのる満月の空を仰ぎし一五の心 山岡樹代子