ニッケイ新聞 2012年9月21日付け
診察のために毎月通っているサンパウロ市のクリニカス病院は、コラム子にとってブラジル社会を学ぶ教科書のような存在だ。まるで一つの町のように巨大な同病院には、USP教授やインターンなどまさに当国一流のエリート層が医師陣として、勤勉な中産階級が職員として、SUS(国営無料健康保険)を使う庶民層が患者としてひしめいている▼地下階にポルキロ・レストランがあり、とても印象的な作りだ。経営会社は一緒なのに、わざわざ三つに仕切って別々のレストランとして営業する。一番手前にあるのは4レアル定食のみで、とにかく安くて量が多い。中間にはキロ11レアルのポルキロ、最奥にはキロ28レアルのポルキロだ。奥に行くほど食べ物の質は良くなり、面白いことに食後のカフェすら見事に変わる。最安はカフェなしだが、最奥はエスプレッソ機の挽きたてが飲める▼各レストランは壁状の全面ガラスで仕切られており、まるで隣同士のように思えるのに、実はしっかりと区切られている。よく見ると、値段別に見事に客層が異なる。最安のところには庶民、中間には職員風、最奥には医者やインターンが中心に見える。明らかに最安ほど肌の色が濃い人が多いようだ▼単に運営上の問題でそうしたのかもしれないが、うがった見方をすれば、〃階層〃ごとに食事をした方が落ち着く心理があるのかもしれない。そういえば、貧民街パライゾーポリスと高級住宅街モルンビー区は隣り合っているが、しっかりと社会的な壁がある▼これも一種の棲み分け処世術なのかと感じた。人種差別ではない。だが、経済格差という透明な壁で仕切られた社会がそこにはあるようだ。(深)