ニッケイ新聞 2012年9月22日付け
12年8月における雇用創出は過去10年間の8月の中で最低の数字となり、景気停滞をしめすものとなったが、同時に同月の失業率は過去10年で最低となった。つまり、ブラジルは経済活動が減速し雇用が増えていないのにも関わらず、失業率が下がるという特異な現象の最中にあり、これにはブラジルの人口構成の変化が深く関わっているようだ。21日付伯字紙が報じている。
全就労・失業者台帳(Caged=労働省が管轄するインターネット上システム)の20日の発表によると、12年8月に創出した雇用数は10万900件だった。政府は18万6千件ほどを期待していただけに大きな落ち込みとなった。
これは11年8月の19万件の56%に過ぎず、2003年以降の過去10年間の8月では最低の数字となった。今回の雇用創出の減少は、建設業がわずか1100件しかなかったことなどが主な原因とされている。
また、今年1〜8月の雇用創出の合計は140万件で、前年の同期比で24・5%の落ち込みだ。労働省雇用局のロドルフォ・トレリー局長は「予想よりも低かったことはたしかだが、現在の世界的な経済危機を考えると不思議なことではない」と語り、さらに9月は例年5月と並ぶ雇用創出月であることから9月の伸びに期待し、12月までに150万〜170万の雇用創出を目指したいとしている。例年9月は、年末のクリスマス商戦用の商品生産、それ用の雇用が始まり、労働市場は活況を呈す。
だが、同台帳が8月の雇用状況に対して悲観的数字を発表したのと同じタイミングで、ブラジル地理統計院(IBGE)も8月の失業率が5・3%に落ちたことを発表した。これは同院が失業率の調査をはじめた2002年以降、最小の数字を記録した。また1〜7月の失業率平均も5・7%で過去最低。また主要都市別の失業率も発表され、サンパウロ市は6・1%。最低はポルト・アレグレの4・2%で、最高はサルヴァドールの7・7%だった。
2012年の国内総生産(GDP)の予想が2%を切る経済減速の只中で雇用創出が減っているにも関わらず、不思議なことに失業率は下がっている。経済学者カイオ・マシャド氏はこの異例な現象の理由を「雇用数が減っても、仕事を探す人の数も減少しているから失業率上昇にはつながらない」と説明する。
これは、ブラジルの年齢別の人口分布において、若年人口が減少期に入ったことによる。ブラジルでは1980年から出生数が減少しており、これ以降に生まれた15〜24歳の人口減少が顕著になって来たのがちょうど今なのだという。
2006年から11年にかけて、「労働可能な人口の総数」は年平均1・6%の伸びだったが、2011年8月からの1年間に限ってみると、わずか0・7%の伸びしかない。
こうした背景から「経済が減退しても、労働人口自体が減っているために、企業側が従業員解雇に踏み切れないのではないか」とマシャド氏は見ている。