ニッケイ新聞 2012年10月5日付け
「犢鼻褌」を知ったのは、子どもの頃で池部良と杉葉子の映画「青い山脈」だったように覚えている。石坂洋次郎の小説を映画化したもので戦後の混乱した時代に若者らの青春の歓びと淡い恋の物語を綴ったもので大変な人気となった。電気もないような田舎の子に「たふさぎ」が分かるはずもなく、家に帰り祖母に訊ねると「ふんどし」と説明してもらい、ちょっぴり大人になったと背伸びをしたものである▼「褌」は男性専科であり、我が家の親父は六尺を締め、叔父貴は越中を愛し、あの戦中にもビルマの戦線で38式を片手に晒し木綿の越中で敵と戦ったそうだ。今はもう「ふんどし派」はいなくなったろうし、あるいは相撲の力士らが十二〜十三尺かの超々に長いのを締めているけれども、兎に角—ごく最近までどこの家の箪笥にもきちんと畳んで収まっていたものである▼ところが—である。今や、若い女の子らが「かっこいい」と、赤やら青など色とりどりの「ふんどし」に殺到する人気なのだそうな。ブラジャーと柄を同じにしてのおしゃれっけも忘れないし「とてもリラックス」と、おしとやかに御話になるお方がいっぱい。勿論、六尺型ではなく、越中に近いものだが、昔のような晒し木綿の「純白」はなく総天然色の華麗な「しゃれふん」である▼布もベージュや紺のリネン(麻布)を使いしなやかさが売り物らしい。それに—夜に眠るときにこの「しゃれふん」で布団に入り横臥すると、緊張感が緩みゆっくりと安眠できるというおまけもついているそうだし、「たふさぎ」の効用は今や大和撫子にも及び、日本列島は万万歳だそうな。(遯)