ニッケイ新聞 2012年10月20日付け
薩摩や土佐の人々には叱られるだろうが、カツオは三陸海岸のが美味い。あの魚は親潮に乗って春に鹿児島に到来し高知県沖から紀伊半島と北上し北海道近くまで登る。そして秋になると南下するのだが、この頃になると身に脂がいっぱいになり「戻り鰹」と云い、これが何とも美味い。勿論、刺身が一番だが、高知のように藁の火で炙ったタタキにはしない▼先月、宮城県の金華山沖で三重県のカツオ一本釣り漁船「堀栄丸」が貨物船と衝突し沈没、9人は救助されたが、13人が行方不明という不幸があったけれども、あの「堀栄丸」も今が旬の「戻り鰹」を釣ろうとしたのだ。昨年の東日本大震災の津波で大きな被害を蒙った石巻や気仙沼の港が有名な水揚げ先であり、9月や10月ともなれば、これの刺身や茶漬けを楽しみ、大いなる口福を味わったものである▼とは—云っても、日本料理の基本である「出し汁」には欠かせない鰹節については土佐であり、あれは三陸のカツオでは駄目なのである。あの名物は春に獲れたもので脂のないものでないと美味しい鰹節は作れない。勿論、宮城や岩手でも、「なまり」と称しカツオを下ろしたのを干したのがあり、これを割いてキュウリの薄切りなどと合えたりはするが、あの鰹節とは遠い▼さる14日に県連の大震災慰問団に参加した人が同郷で挨拶に来られたので雑談に花を咲かせながら故郷の話になり「あっそうだ。今は戻り鰹だから食べてこいよ」と語ったりしたので、こんなカツオ談義になってしまったが、今、想い出してもやっぱり「戻り鰹」は何とも懐かしくー美味い。(遯)