コラム 樹海

ニッケイ新聞 2012年10月27日付け

 「太陽の季節」もだが、80歳で国政へ—と石原慎太郎氏の動きには、唯々びっくり仰天するしかない。あの「太陽の季節」が発表されたときは、作品に倫理性が欠けるの意見もいっぱいだったし、芥川賞の選考会も川端康成や舟橋聖一は支持したが、宇野浩二は「一種の下らぬ風俗小説である」と反論し、文壇を賑わせもした。そして大宅壮一の「太陽族」が流行し、慎太郎刈りがぺんぺん草の田舎の街をも罷り通った▼本本、京大の桑原武夫教授の下で仏文を学びたいのが夢だったのだから文学的な才能は天賦のものらしく、小説や文化論も多い。だが—である。この人の政治的な発言と行動には、世の常識を突き破り、まったく意表をつくようなものが—目立つ。今でも執念する尖閣諸島への支援にしても、もう15年近くも前に西村慎悟衆議(当時)の上陸を応援し、船で尖閣まで追いかけてと兎に角、威勢がいい▼そして今度は都知事を辞職し国政復帰の爆弾宣言だから、これはもう驚くしかない。「石原語録」を振り返って見ても、一言でずばりと切り込む鋭さが凄い。このために庶民らの人気は高いが、左系の人々は「右翼」とし、超保守派と非難する。憲法改正と官僚嫌いは持論だし、尖閣諸島についても「日本の領土」と堂々と語る。それにしても、世のお爺さんらはもう隠棲だろうに80歳にして国政へ挑戦とは、これはもう人生哲学としか申しようがない▼石原氏の目指す第3極勢力にまで大きくなれるかどうかは分からないが、政界の大きな渦となって政治の世界に「石原節」が鳴り響くようになると大いなる期待を寄せている。(遯)