ニッケイ新聞 2012年11月2日付け
先進諸国20カ国の中で、ブラジルが最もダンピング(自国内での値段よりもはるかに安い値段で国外に売る不当廉売)による苦情を行なっていることがわかった。1日付フォーリャ紙が報じている。
世界貿易機関(WTO)が10月31日に発表したレポートによると、G20に加盟している先進・新興諸国と地域中、2012年5〜9月において最もダンピングに関する苦情を行なったのがブラジルだった。2位はカナダで、3位は中国、オーストラリア、インドネシアとなっている。
5〜9月に出されたブラジルからのダンピングの苦情は27件で、これはWTOがこの期間に受けた苦情の数(77件)の約3分の1を占める。これは一時的な数ではなく、1〜10月の累計も56件となっている。このまま行くと12年1年を通して1位になる可能性が高く、そうなればブラジルは初の1位となる。また関係者は「ブラジルは当面、ランキング1位を保つだろう」と語っている。
ブラジルが12年10月までに導入したダンピング規制は16に及び、11年の年間規制数と既に並んだ。ダンピング規制の対象となった商品はブラジル最大の貿易国である中国製が最も多く、現在適用されているダンピング規制88のうち、33が中国製品向けとなっている。ダンピング規制で保護されている分野には、鉄鋼、タイヤ、化学薬品、鉱業、医薬品などがあげられている。
ブラジルからのダンピング訴訟や保護対策の増加は、米国をはじめとした先進諸国から「保護主義色の高まり」と批判される材料となっている。特に米国は、ブラジルが行なった100品目についての輸入関税の値上げに対して敏感になっている。ブラジルとしては、ドル安レアル高などもあって他国からの輸入品が急増し、生産活動にも支障をきたしている国内企業から保護を求める声が高まったことに応える形の関税対策だったが、他の国や地域には、公平な競争原理を失わせるものとして映っている。
WTOでの保護貿易論争に関し、シンシア・クレイマー弁護士は「多くの国がブラジル市場の大きさにきづいて成功を収めたがっており、進出を希望する企業の役員たちがブラジルの対策は不公平だと訴えている」と見ている。
フォーリャ紙は、ブラジルでは、国内では高くつく電化製品や薬品などを国外で安価で購入しようとする人々が出てきていると指摘し、「得をするのは一部の企業だけで、一番被害を受けるのは消費者だ」と分析している。