ニッケイ新聞 2012年11月23日付け
サンパウロ州保安局が21日、10月のサンパウロ市の殺人事件は昨年同月比92・3%増の150件で、被害者は114%増の176人だったと発表した。通常は25日の犯罪統計発表が前倒しで行われたのは保安局長が交代するためで、〃暴力の波〃に手を焼く州政府の姿が浮き上がっている。
州都第一コマンド(PCC)と軍警の間で繰り広げられ、〃宣戦布告の無い戦争〃とも言われる〃暴力の波〃—。通常はこのような状況ではありえない保安局長の交代劇は、まさにこの波ゆえに起きた。
アントニオ・フェレイラ・ピント保安局長が21日に発表したのは、10月のサンパウロ市の殺人事件は昨年同月比92%、被害者数は同114%増、大サンパウロ市圏での事件数も173件から286件にと65・3%増えたが、州全体では366件から505件への38%増だったという、ある意味で予測された数字だった。
10月下旬以降の伯字紙では、大サンパウロ市圏での1昨日夜から昨日未明にかけての殺人事件の犠牲者は何人で負傷者は何人という報道が続き、9月までは1日平均6人だった大サンパウロ市圏の死者は、10月末以降10人になっている。保安局によれば、10月までの累計の殺人事件数は、州全体が昨年同期の11・6%増だったのに、サンパウロ市では29・1%増になっている。
5月末に起きた巡回機動隊(ROTA)によるPCCメンバー殺害事件後、PCC幹部が「逮捕者1人に付き軍警1人、死者1人に付き軍警2人を殺せ」という指令を出した事は本紙でも既報だが、保安局長は当初、PCCが警官襲撃という話は聞いていないと言うなど、PCCを過小評価する姿勢がみられた。
また、連邦政府の支援の話も法務相から聞いてないと突っぱねるなど、こわもて振りを発揮。その一方で、軍警の報復処置と見られる事件急増を食い止められず、ジェラウド・アウキミンサンパウロ州知事が保安局長交代を考え始めたのが2カ月ほど前だった。
知事が白羽の矢を立てたのは4月まで検察局長だったフェルナンド・グレラ・ヴィエイラ氏で、同氏から内諾を得た19日にピント局長を呼び、局長ポストの明け渡しを要請した。保安局長の交代は21日に公表され、ピント氏は最後の仕事となる犯罪統計の発表後、州知事に辞表を提出。グレラ氏の就任式は22日午前中に行われ、市警や軍警のトップ交代も近日中に行われる見込みだ。
新局長は、PCC絡みの事件の捜査に市警を復活させる事と軍警による行き過ぎた行為の取り締まり、一般社会との対話回復といった緊急課題に直面しつつ、〃暴力の波〃に対処する必要がある。検察局長時代のグレラ氏は、意見の対立する人も重要ポストに配すといった配慮をする人で、組織判事撲滅特別班(Gaecos)を指揮した経験もある。前任者のピント氏も「タイプこそ違え、PCCのような組織犯罪には効果的な手を打てるはず」と見ている。