ニッケイ新聞 2012年11月30日付け
「奴隷の呪いだ!」。コラム子が住むアパートの住民総会で、高齢の白人弁護士は会計報告を見ながら、吐き捨てるようにそう言った。何が〃呪い〃かというと、アパートの従業員(ゼラドール等)の給与や福利厚生にかかる費用が、彼らの組合の決議によって年々上がっていくことだという。その結果、アパートの各世帯が負担する共益費(コンドミニオ)がインフレ率以上にどんどん上がっていくわけだ▼その現象のどこが「奴隷の呪いか」と弁護士に聞いたら、「奴隷時代が長かったために、大農園主に搾取されることへの嫌悪、雇用主からやられたことに対する復讐心が、国民のすみずみにまで浸透してしまい、労働者の権利を過剰に擁護する法体系、法曹界の実態を生んでしまった。労働裁判が起きれば、負けるのは九分九厘、雇用主側という奇妙な国になってしまった」との持論を熱心に展開し、天を仰いだ。ならば、当地の企業はどこも〃奴隷の呪い〃に苦しんでいる訳だ▼1888年に奴隷解放されてから来年でちょうど125年だが、今でもTVのノベーラではよく奴隷制時代の大農園の話をやっている。弊紙で連載し、大好評を博して昨日終了した小説『ガブリエラ』(佐東三枝訳)の行間からも奴隷時代の名残りを感じた▼このような〃被害者意識〃と言う意味では、他にも南米特有のものがある。例えば南米に左派政権が多く、反米国が大半を占めるのも、かつて自分達を搾取した伝統的な欧米列強への復讐心か。であれば、亜国でクリスチーナ氏が英国を罵倒し、ベネズエラでチャベス氏が米国の悪口をいって国民から人気を集めるのは「植民地の呪い」?(深)