ニッケイ新聞 2012年12月21日付け
スザノの福博短歌会では9月に歌集『深泉』400回記念号を発行した。宮崎県を代表する民謡「ひえつき節」の補作者・酒井繁一(1901—84、宮崎県)が指導し発足した伝統ある歌会だ▼酒井さんは戦前移民で50年代に5冊も東京で著書を出版したインテリだったが、土地売詐欺に巻き込まれるなど不運な一面もあった。「激動の移民を生きし師の訃報背戸の椰子樹に風たち騒ぐ」(青柳房治)は弟子からの顕彰歌だ▼「中国に果つべき命永らえて五十三年ブラジルに住む」(植松周子)は満州育ちが多い戦後移民ならではの感慨が詠み込まれている。新年は戦後移住60周年だけに、戦後らしい秀作をたくさん残して欲しい▼11年を詠んだものとしては「三陸を襲える巨大の黒津波この世の悪魔身はわななきぬ」(藤田朝日子)は外せない。雪の降る故郷がNHKに映ったのだろうか、「ブラジルに住みし半生の隔たりを埋めて生家に降る雪」(青柳ます)も年末の風情を感じさせる。「吽形に口を結べる夫の遺影移民の苦労ただに堪えきて」(寺尾芳子)も味わい深い。「邦人の住みつくところ桜咲く百年祭の近きコロニア」(酒井嗣朗、07年没)も08年に向けて高鳴る期待感が感じられる▼新年になれば「いよいよ来年はW杯」という声が高まる。「バカだよとサッカー選手のミス貶し仕事を止めて応援するバカ」(内谷美保)というサッカー大国らしい微笑ましい光景は繰り返されるだろう。本紙は22日付けで今年はお終い。読者諸兄には本当にお世話になった1年だった。深謝したい。新年は3日付けから。良いXマスと新年を。(深)