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「日本は没落と苦悩に喘ぐ国となるのか—否、若者がいる」=フォーリン・プレスセンター理事長 赤阪清隆=第4回=震災が見せた日本の底力=普遍的価値観守る社会

ニッケイ新聞 2013年1月9日付け

 また、元気一杯でエネルギッシュな人というのは、見ただけで分かりますね。態度や声が普通の人とは違って勢いがあり、周りを賑やかにする華やかさがあります。同じことが国単位でも言えるのですね。
 国連で仕事をしていた時に、右肩上がりの国力を背景に昇り盛りの勢いのある国と、そうでない国との違いをひしひしと感じました。元気な国の勢いを感じさせたのは、インド、中国、韓国、ブラジル、トルコ、カタールといった国々でした。大きな国際会議、オリンピック、万博、ワールドカップなどもこのような国に集中しています。
 私たち団塊の世代が皆さんのように若かった時代の日本は、まさにその右肩上がりのエネルギーにあふれていました。司馬遼太郎の『坂の上の雲』を読んで明治の時代をしのびながら、明日は必ず今日よりもよくなるという進歩主義的な考えが支配していた昭和時代に青春を過ごしました。
 しかし皆さんは、右肩下がりの日本で、「明日は今日よりも悪くなるかもしれない」という難しい時代を生き抜いていかなければなりません。
 ただ、考えようによっては面白い時代の到来といえるかもしれません。
 戦争も無ければ極端な貧困、イデオロギーの対立もなくなった時代に育った我々の世代は、戦争を含む社会の劇的な変化を経験した親の世代に比べ、確かにもやしのようにひ弱です。
 しかしこれからの若い人たちは、ひょっとしたら没落の道を歩むかもしれない日本を何とか支えて、できればこれを反転させるという大きな仕事を抱えています。再び野性味あふれる若者のエネルギーが必要とされる時代が来ているのです。難しいが、エキサイテイングな時代が来るのです。
 私は、日本の将来が悲観的なシミュレーションに描かれたほど暗いとは思いません。この国がこれから1世紀も没落と苦悩にあえぐ国になるとは思いません。「アジアの片隅に浮かぶ、老いていく内向きな島国として衰退への道へと向かう」とも思いません。なぜなら、日本、日本人にはまだまだ底力が残っているからです。
 去年の東日本大震災の際に、日本人の底力は世界中の人々をびっくりさせました。大地震、大津波、原発事故という三重苦が一時に発生した大災害でしたが、よその国だったら起きたであろう略奪や放火などがまったく起きませんでした。
 それどころか、多くの人々は沈着冷静に自制心を持って対処し、お互い助け合い、励ましあって困難に耐えました。この被災者の方々の整然とした対応には世界の人々が驚嘆し、同時に賞賛して止みませんでした。私は去年8月、バン国連事務総長に同行して福島の被害現場と避難所を訪れたのですが、事務総長も感心することしきりでした。
 それに、自由、民主主義、基本的人権、法の支配などの普遍的な価値への信頼が揺らいでいないことも日本の強みです。国連が実現しようとしている理想の社会には欠かせない価値が、日本では揺るぎなく尊重されています。これは、戦後培ってきた民主的な教育の賜物だと思います。日本にも色々問題はありますが、それでも政府を批判したからと言って逮捕されることはありませんし、自分の家や財産は勝手に奪われることもありません。(つづく)