ニッケイ新聞 2013年1月9日付け
韓国語、中国語がブラジルで勢いづく—。サンパウロ総合大学(USP)の哲学文学人文科学科(FFLCH)に、韓国語のコースが2013年から設置される。昨年6月末に行なわれた同大学の審議会で正式決定した。特に経済面で進出が著しい韓国だが、公教育機関、中でも当地の最高学府で韓国語を学べる環境が整い、同国政府は自国の言語普及にも投資を惜しまない姿勢のようだ。一方、日本はどうだろうか—。
コースでは韓国語文法、文学、歴史などの授業が行なわれ、定員は15人。希望者が多ければ今後増やすことも視野に入れているという。
学科創設に向け、近年中にあと2人の教員が派遣される予定だ。同大関係者によればUSP自体には経営的に教員枠を増やす余裕は全くない。つまり韓国政府の予算で派遣されてくるようだ。
8月20日のUSPサイトのニュースによれば、韓国語コース創設プロジェクト担当のアントニオ・メネーゼス教授は、「コース創設はずっと前からの念願だった」と語り、同学科2年生のアマンダ・ブエノさんは日本語を選択したが、「もし前に韓国語があったら、そっちを選んでいた。日本はアジアへの扉のような存在だけど…」と韓国への関心の高さをうかがわせた。
USPの韓国人客員教授ユン・ジュン・イムさんは、ブラジルにとっての同国の重要性を、国外で2番目に大きなコミュニティの存在、ヒュンダイやサムスンなど企業の巨額の投資、Kポップなど韓国文化の流行の3つを挙げて強調し、「あらゆる面で勉強するのに面白い国」と韓国をアピールしている。
また、昨年8月にサンパウロ近代美術館で行われた韓国の陶磁器の展示会では、韓国外務省の外郭組織コリア・ファウンデーションのウーサン・キム理事長がUSPの学長と話し合いの場を持ち、同理事長が奨学金プログラムの創設について提案したという。
勢いがあるのは韓国語だけではない。8月30日付G1サイトのニュースによると、サンパウロ州の州立学校で中国語クラスも開講されたという。
同大日本語学科で教鞭を取る松原礼子さんは「生徒を取られたと嘆く教員もいるが、欧米言語に比べると東洋は存在感が薄い状態。これから手を取り合って、東洋言語への注目を高めていけるのでは」と前向きにみている。
故鈴木梯一氏の働きで、USPに日本語学科ができたのは60年代のことだ。そこから約40年—。今、韓国も同じ位置に並んだことになる。
当地の日本語教育の場合、公教育機関で学んでいるのは全学習者約2万人のうち4分の1の約5千人にとどまる。ただし、世界における日本語学習者が多い国の傾向としてはこの比率が逆の場合が多い。韓国語、中国語はそこに照準を絞ってきているようだ。
ブラジル日本語センターの丹羽義和事務局長は「外交レベルの問題ではあるが、ブラジルの場合、移住者はもういないので、これからは公教育で日本語学習者の減少を補っていく時代だと思う」と話している。