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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2013年1月16日付け

 日々の路上には、良く悪くもブラジルらしい光景が展開する。昨年のことだが、前かがみに腰を浮かして座ったラッパー風青年の絵が描かれた壁があり、毎朝その前を通って通勤していた。たいしたことのない、よくある落書だ▼だがある日、絵の腰部分の下に立派なウンコがしてあった。平面的な絵から〃立体〃が飛び出したかのような絶妙な位置関係で、おもわず「ある意味、芸術的かも」と妙に感服した。いくらセンスが絶妙であっても、そのまま美術館に飾るわけには行かない〃過激な作品〃だ▼その「路上の芸術」は時に雨で流されキレイになったかと思ったら、ある時、下痢ベンになっていたりして、おもわず「病気か」と密かに心配させた。でもある日、通りかかったら、市役所の職員に白ペンキでキレイに塗られてしまい、ただの壁に戻った▼ブリガデイロ街のある飲食店の入口には、ロテリア売りのおばさんが狭い立ち机の前にいる。髪の毛はボウボウで飾りっけのない、大声で卑語をしゃべる貧困階級的風情の中年女性だ。でも一昨年の正月、突然その立ち机の正面に「Presidenta」(女性大統領)と手書きされたのを発見したときは、思わず吹き出した。ジウマ大統領の演説台にみえないこともない。テレビのバラエティ番組は笑えないが、この種の庶民のお笑いセンスはどこか微笑ましい▼数年前、東洋街の道端に座って何かを食べている乞食女性がおり、通りがかりに好奇心で覗いたら、箸で器用にヤキソバを食べていて魂消た。世界広しといえど、乞食までハシを使うのは西洋文化圏ではここだけではないか——と妙な誇りを感じた。(深)