ニッケイ新聞 2013年3月27日
3月15日までの拡大消費者物価指数(IPCA—15)は市場の予想以下の0・49%高で年間累計も6・43%で止まったが、「雇用と所得」という現政権の旗印がインフレを押し上げており、インフレ抑制のためには低成長が必須という皮肉な意見が出ていると22〜24日付エスタード紙などが報じた。
インフレ圧力の高まりは政府の経済スタッフや中銀も知るところで、年末以降、リオ市やサンパウロ市のバス料金値上げの延期、電力料金値下げ、基礎食料品・雑貨セット(セスタ・バジカ)の免税などといった諸政策が矢継ぎ早に採られてきた。
3月の物価はガソリン代値上げなどの影響が残る一方で、私立校授業料値上げの影響が鎮静化、航空料金も16・41%低下などにより、IPCA—15は0・49%、年間累計も6・43%上昇で終わったが、月末は政府目標上限の6・5%突破は必至と見られ、手放しで喜べない。
政府としては7月以降のリオ市やサンパウロ市のバス代や地下鉄料金などの調整幅も極力押さえたいところで、ディーゼル油のPIS(社会統合基金)とCofins(社会保険融資納付金)免税を検討中だが、これらの対策は一時的な対症療法で、根本対策ではないというのが専門家の意見だ。
3月のIPCA—15が予想以下の上昇だったため、市場では経済基本金利(Selic)引上げは5月からとの見方が広がっているが、従来の中銀がインフレ抑制の切り札としてきた基本金利引上げの先延ばしは政府の意向との声はしばらく前から聞こえている。
ギド・マンテガ財相は21日、過去2年間の経済成長は予想以下だったが、「雇用と所得」という旗印は維持されていると発言、アレッシャンドレ・トンビニ中銀総裁も翌日、インフレ抑制が第一で観察は怠っていないと明言したが、23、24日付エスタード紙は、中銀は政府目標のIPCA4・5%を遵守する意思を欠く、安定雇用がインフレ押し上げといった記事を掲載した。
ブラジルの雇用と所得は低成長下でも伸びており、ブラジルの最低賃金が2桁近い数字で毎年調整されている事は、他国の経済専門家も注目している。所得増で国内消費が加熱し続けた事は、国際的な金融危機下でも順当な経済回復を遂げた一因で、輸入工業品への高関税などの国内産業保護策が雇用の増加も生んだ。
だが、これらの政策が熟練工などの質の高い労働力の不足や人件費高騰などの生産コスト高を生み、為替の不均衡とも重なって、工業界の国際競争力低下や輸出不振、経済活動減速化にも繋がっている事は余り認識されていない。
労働力の需給バランスの崩れや工業界の競争力低下は長期計画の欠けが原因だし、雇用と所得はインフレを押し上げるといわれても、選挙年前の現政権としては、経済活動の鈍化や基礎収支の黒字目標増額を招きかねない基本金利引上げは最小限に抑えたいところだ。