ニッケイ新聞 2013年4月16日
北米ロサンゼルスに所在する全米日系人博物館が運営するサイト「ディスカバー・ニッケイ」(DiscoverNikkei.org/ja)では、ニッケイ食文化が日系人のアイデンティとコミュニティに及ぼす影響というテーマで文章を募集し、「いただきます! ニッケイ食文化を味わう」というエッセイのシリーズを発表した。そこに集まった各国の日系人の食文化関するエッセイを順次、掲載する。(編集部)
私のブログに残されたコメントには、「ついにあなたと妹さんを見つけたわ!」と綴られていました。その人は、私の父と幼年期から青年期にかけて友人だったと言うのです。しかし、私が覚えている限り、会ったことはありません。彼女は、日系アメリカ人の中では珍しい私と妹の名前も知っていました。私がカリフォルニアのローズビルで育ったことも知っていて、父の思い出を私に伝えたいというのです。
私は初め、少し気味が悪い気がしましたが、記憶の中から子供の頃の名前リストを洗い出してみました。でも、思い出せるのは、狭い家の中で開いた夕食会に大勢のお客さんがひしめき合っていることだけでした。他には何もありません。この人は一体誰だろう?
決定的だったのは、コメントの追伸でした。
「お父さんのすき焼きレシピ(あなたのお祖父さんから引き継いだもの)の秘密も知っているのよ。ログキャビンのシロップでしょ!」
ご明答! 彼女は本物です。
△2▽
すき焼きは、鍋料理(日本語では、鍋物と言います)ですが、すき焼きを知らない人にはそれだけでは説明になりません。「一鍋料理」と言うと簡単なものを想像するかもしれませんが、実は、たくさんの食材を切ったり、材料やソースを事前に合わせておく必要があるので、実際は「一鍋プラスいくつもの料理」なのです。すき焼きは、たっぷりのタレ(割下)で作る、牛肉、豆腐、長ねぎ、白滝、赤玉ねぎ、タケノコの炒め物のようなものです。
私にとってすき焼きは、何皿もの薄切りのハラミステーキであり、涙が出そうになるほどの赤玉ねぎのツンとする香りです。最高と称されるレシピには、多くの場合、秘伝のタレがあります。私の知る限りでは、ほとんどのすき焼きは醤油ベースで、みりんを加えることで甘みが足されています。生卵を添えて、一口ずつ浸しながら食べる人もいるようです。
わが家のタレは甘ったるく、醤油と味噌を合わせ、隠し味に生卵でコクを出しています。そして、酒をジガー(カクテル用計量器)1杯分、缶詰の袋茸の汁を加えることで、旨味が数段増します。そこに甘みを少々加え、全体のバランスを整えます。(ここで忘れてはいけないのが、ログキャビンシロップなのです)これを一晩寝かせ、味を馴染ませます。(つづく)
【著者紹介】タミコ・ニムラさんは、太平洋岸北西部出身、現在は北カリフォルニア在住の日系アメリカ人三世でありフィリピン系アメリカ人の作家です。タミコさんの記事は、シアトル・スター紙、Seattlest.com、インターナショナル・イグザミナー紙、そして自身のブログ、「Kikugirl: My Own Private MFA」(http://www.kikugirl.net/) で読むことができます。現在、第二次大戦中にツーリレイクに収容された父の書いた手稿への自らの想いなどをまとめた本を手がけている。