ニッケイ新聞 2013年4月27日
サンパウロ州政府が第1四半期の強盗殺人は前年同期比24・7%増と発表した25日、大サンパウロ市圏サンベルナルド・ド・カンポ市で、47歳の女性歯科医が強盗達に生きたまま火をつけられて死ぬという事件が起きたと26日付伯字紙が報じた。
事件が起きたのは25日昼過ぎ。自宅奥の診療所で患者の療中だった歯科医のシンチア・マガリ・モウチーニョさんが、「急いで診てくれ」という男性に門を開けたところ、計3人が入り込み、強盗を名乗った。
診療所には金がなく、銀行のカードを見つけて暗証番号を聞きだした賊は、1人を見張りに残してガソリンスタンド内の店まで金を下ろしに行った。だが、口座にも金はなく、30レアルしか引き出せなかった賊は診療所に戻って金はどこかと問い詰めた。
だが、シンチアさんは「金はない」を繰り返すだけ。痺れを切らした賊は、「金のありかを言わなければ火をつける」との言葉通り、治療用のアルコールをシンチアさんに浴びせ、「止めて」という叫び声を無視して火をつけた後、女医の指輪とわずかな現金、患者の所持品を盗み、門の外で待っていた黒いAudiに乗って逃走した。
現場にいた患者は目隠しをされた上で人質にされ、バッグや携帯電話、時計などを盗られたが無傷。賊の逃走後、女医を覆った火を消そうとしたが、シンチアさんは間もなく息絶えた。
叫び声と煙に気づいた隣人が消防に通報、家の前に人垣が出来たところに帰ってきたのは、精神障害を持つシンチアさんの妹さんを迎えに行っていた両親だ。貧しい人からは金も取らず、両親と妹を食べさせていたシンチアさんを亡くした父親は、「あの娘は妹にとって母親でもあった」「自分達のような思いをする人がこれ以上出て欲しくない」と、涙ながらに話したが、妹さんには姉の事は伏せている。
サンベルナルドでは12日にも診療所を狙った強盗事件発生など、ABCやサンパウロ市南部のサコマンで同様の手口の事件が続き、よく似た車も目撃されている。警察は既に車の所有者を見つけ、防犯カメラの不審者が所有者の息子である事を確認。26日朝、事件関与が疑われた未成年者と車の所有者への事情聴取が行われたが、未成年者は「友人の1人が電話をかけてきて、自分達の仕業だと言った上、今から逃げると言っていた」と供述、身柄を解放された。
州政府によれば、第1四半期のABC地区の強盗殺人事件は、昨年同期比260%増。ABC込みの大サンパウロ市圏では、週2件の強盗殺人が起きており、全州では1日1件。全州の殺人事件は1073件が1189件に10・8%増、強盗殺人は81件が101件に24・7%増だった。