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貧困・飢餓対策の転換必須=欧州の学者が限界指摘=家族農への投資訴える=14年選挙への対応策は

ニッケイ新聞 2013年5月7日

 国連で飢餓対策に関する論議の報告者を務めたスイスの社会学者ジャン・ジグレール氏が、ブラジルで『集団破壊—飢餓の社会政治学』という本を刊行し、ブラジルの飢餓・貧困対策はもう限界に達しており、ブラジルは180度の転換が必要と語ったと5日付エスタード紙が報じた。

 ジグレール氏は飢餓問題の国際的権威で、労働者党(PT)政権が10年前に導入した生活扶助「ボウサ・ファミリア」について最も熟知している人物の1人だ。
 2002年大統領選挙でルーラ氏が打ち出した「フォーメ(飢餓)・ゼロ」という言葉は世界中の注目を集め、ルーラ政権が取り入れたボウサ・ファミリアも、飢餓対策の一例として国際的な評価を受けた。
 ボウサ・ファミリアはその後、極貧撲滅を掲げて大統領選に出馬したジウマ現大統領により、ブラジル・カリニョーゾなどで補強された。また、ジウマ大統領が今年2月に、生活扶助の受給申請をしていた極貧者は3月末までにゼロになるとの宣言した事は2月12日付伯字紙も報じた。
 ボウサ・ファミリアの対象者リストに登録されていた極貧者が全員、一人当たりの月収70レアル以上の粋に達したか否かの報告はされていないが、ジグレール氏は、ブラジルで食べるのにも事欠いていた人々の割合はこの10年間で半減したと評している。
 しかし、ジグレール氏はボウサ・ファミリアが極貧対策として有効である事は認めつつ、生活扶助は国連の人道支援に当たるもので極貧や飢餓対策としては限界に達しており、小規模な家族農に目を向けた政策への転換を図らなければ、飢餓に苦しむ人をゼロにする事は不可能だとしている。
 同氏によれば、2012年の世界中の死者7千万人中1800万人は飢餓による死で、5秒に1人、1日では5万7千人が飢えて死んでいるが、広大な土地や気候にも恵まれたブラジルは飢餓に悩まされ続ける理由がない。
 また、家族農は雇用を生み土壌を保持する、飢餓対策のためには最も効率的な農業形態だとする国連の食糧農業機関(FAO)の見解を強調。家族農に焦点を当てた投資や支援が貧困や飢餓撲滅の鍵だと述べる一方、ブラジルでは農地改革が口約束で終わり、余り前進していないとも指摘した。
 農地改革については、ジウマ政権での定住者数は3政権で最低で、土地なし農民運動(MST)からも不満の声が出ている。2月8日にジルベルト・カルヴァーリョ大統領府総務室長が、現政権では従来型の農地改革の見直しをするために定住地の割り当てなどを抑えてきたと釈明し、理解を求めたが、その後も大きな変化は起きていない。
 6日付フォーリャ紙には、来年の大統領選に向け、ジウマ陣営が経済の専門家らを配すとの報道も流れているが、PT政権が10年かけて行ってきた貧困・飢餓対策の限界を指摘された後、どんな対応の変化が現れるかも注目されそうだ。