ニッケイ新聞 2013年5月9日
【クリチーバ発=田中詩穂記者】日本の文学、歴史、演劇、美術、映画などを題材にし、パラナ州クリチーバで2009年11月から発刊されていた季刊紙『MEMAI』(ポ語)。広告収入の減少により第9号で一時停止しているが、サイト(www.jornalmemai.com.br)では続行、記事に留まらず現地コロニアのイベント情報を含め積極的に更新している。だが、最終的には2千部を発行した紙媒体へのこだわりは強い。現在、年二回の雑誌刊行に向けて計画を練る久保田マリリア編集長(49、三世)=パラナ州パラナグア出身=に聞いた。
アニメ、マンガに留まらない硬軟交えた題材の原稿を専門家に寄せてもらうほか、独自のインタビュー記事から最新情報の紹介など16頁。
創刊は友人との共同作業。「好きなことをやりたかった。商売ではなく手作りの新聞」だったが、「号を重ねるごとに読む人が増える感覚があった。想像以上に日本文化の愛好者が多かったことに驚いた」と話す。
若者に人気なのはアニメ、マンガ。それだけの状況に不満があった。「小難しいものじゃないけど表面的なものも載せたくない。日本のものだけじゃなく日本論も扱う。文学を中心に日本について描いているもの全般を取り上げて、あらゆる評価の仕方の可能性を示したかった」。柔らかい雰囲気のマリリアさんだが、編集方針を語るときの口調は真摯で熱い。
いささか不思議なタイトル「MEMAI」の由来は「外国の文化に触れるとき、感銘を受けると同時に見るべき方向がわからず、眩暈のような、あいまいな感覚に襲われる」ことからだという。日本の歌手椎名林檎の楽曲「眩暈」の歌詞からのインスピレーション。それは自身の体験にも基づいているようだ。
「小さい頃、日本人会にも出入りせず、日本語は話していなかった。学校で日本人って呼ばれるのも嫌だった」。祖父母と同居もしておらず、家庭、学校も完全なポ語環境で育った。
進学のため15歳で出たクリチーバで、日本好きの友人から「日系人なのに、なぜ日本文化を知らないの?」と驚かれたことで何かが目覚めた。
もともと筋金入りの文学少女だったことから、入り口はやはり文学。「好きな作家はカワバタ、タニザキ」。
パラナ連邦大学ではジャーナリズムの学士、文学の修士をそれぞれ取得。卒業後は雑誌、新聞社で働き、2007年にはパラナ新聞に勤めた経験も。
日系社会や移民の歴史も勉強した。「日本人の血が流れている自分のことを知りたいと思った。小さい頃は避けてきたけど、大人になってからなぜか知りたくなった」。改めて大学の講座に通い、基本から日本語の勉強も再開した。
「日本人の顔をしているから、日本的なものからは逃げられない。でも私はブラジル人」。その自己認識と、ルーツへの愛が混ざった独自の感覚でこれからも発信を続ける。