ニッケイ新聞 2013年5月10日
創立20周年を迎えた盛和塾ブラジル(代表世話人=関秀貴、小寺健一)は8、9日にサンパウロ市モルンビー区のホテルで「2013盛和塾《ブラジル》塾長例会」を開催した。日本、米国、中国、台湾などから塾生ら約160人、当地は140人限定で参加し、互いの経営体験を発表し交流を深めた。創業以来一度も赤字になっていないという京セラグループ(約7万人)の創立者にして、巨額債務を抱えた日本航空の再建をわずか3年で無償奉仕で果たした日本を代表する実業家である稲盛和夫塾長の講話に聞き入った。
稲盛塾長は8日午後の講話「経営にはなぜ哲学が必要か」の中で、日本航空から退任するにあたって社員を前に、経営再建できたことに慢心せず、果てしない努力を重ねるべしとの意味で、「空中に浮かぶ人力自転車を思い浮かべよ」との話をしたことを明かした。
「ペダルを踏む力を弱めたら、いつでも落下してしまうイメージを持ちなさい。立派な企業であり続けるには、創業時と同じぐらいの努力を続けることが必要」との哲学を説いた。
「戦後に生まれた幾多の企業も死屍累々の現状です。謙虚にして奢らず。立派になっても反省ある毎日を送り、人に負けない努力を続けてください。哲学の実践を心がけ、魂を磨けば、あなたの企業は長く続き発展する」。塾長はそう語りかけて講話を締めくくると、300人塾生は総立ちで喝采を送った。
講話の前、板垣勝秀当地前代表世話人は開会挨拶をし、「今後10年で塾生の大多数は第一線を退く。いまこそ全社に経営哲学を浸透させ、顧客、取引先と共に実践を深めることが我々の使命」との覚悟を語り、関代表世話人からブラジル塾の現状が紹介された。
矢野敬崇、イデヒラ・マルシオ、マウロ・アンドラーデ3塾生がミニ体験発表をし、塾長は講話の最初に「3人の話を聞いて感銘を受けた。艱難辛苦、凄まじい人生の中で哲学が生きているのを聞いて胸が詰まる思い。ブラジルという異国の地で哲学が生きていると聞き、大変嬉しい」との感想を述べた。
東京塾の片山安茂さん(日本環境マネージメント社長、47、埼玉)は「裸一貫でブラジルで創業されたチャレンジ精神に感服した。こちらで稲盛哲学が広がっていることが実感でき、その普遍性が証明されたと感じる」とのべた。
フランス生まれ、ベトナム育ちで米国ロサンゼルス塾のダン博正トミーさん(コレーヒロ社CEO、61)は「ブラジルは哲学の受入れ方がとても素直。ロスは考えながら受入れているという感じ。またロス塾生で農業はほとんどいない。先進国とBRICsとの違いを感じた」としみじみ語った。
熱気に包まれたまま晩の懇談会となり、交流を深める中で「ブラジルまで来て良かった」との話があちこちで聞かれた。
「日本人の魂証明したい」=山田さんが塾長に報告
8日の塾長例会では、04年に数千塾生の中から盛和塾全国大会で最優秀賞を受けた山田勇次さん(65、北海道)=ミナス州ジャナウーバ市=が塾長へのお礼として、受賞時以降の様子を報告した。
「塾長から受賞時に『ブラジルに帰ってから日本人の魂を証明してください』との言葉を頂き、まず自分の事業を通じてより多くの人を幸せにすることだと考え、04年に塾生仲間の前で『事業規模を10倍にする』と宣言した。以来、昨年の売上げで7倍に、従業員は2倍の2千人、耕作面積は800から2500ヘクタールに拡大した」と報告した。
さらに「昨年、市長に当選しました」と報告すると会場から拍手が湧いた。「塾長の教えに従業員が共感して会社が育っていく一方、市の現状が異なることに違和感を受けていた。日常的な公金横領、荒廃した教育や医療、市民不在の行政…。許しがたいことでした。周りの幸せなくして当社従業員のそれもありません。元市長、現役市長と選挙を戦い、なんの政治経験もない一日本人に多くの市民が期待を寄せてくれました。塾長がJALを再生された姿を見て、私は稲盛哲学で市を改革することを思い立ちました。市民の幸せを通して、日本人の魂を証明したいと思います」と語ると会場に喝采が響いた。
東京塾の瀬山昌宏塾生(インターエックス社長、58、東京)は「山田さんの話に感動した。彼は武士の心をもって市政という新しい分野に取り組もうとしている」と感心しきりの様子だった。
塾長は講話の前に山田さんにコメントし、「哲学を持って市役所に乗り込み改革してみせるとの志は素晴らしい。きっとあなたなら改革できる、勇気を持ってやってほしい。私の方からもお礼を言いたい」との言葉を返した。