ニッケイ新聞 2013年6月5日
朝日新聞の平山亜理前特派員は、勝ち負け抗争に焦点をあてた連載『祖国をたどって』(全5回)を5月21日から発表した。駐在員子弟としてリオで生まれた彼女が、当地赴任の際に在京領事館にビザ申請に行ったら「(ブラジル籍を持っているなら)旅券をとれ」と言われたとの興味深い書き出しで始まる▼朝日新聞といえば1970年、勝ち負け抗争を詳述した『狂信』(高木俊朗著)を出した。《勝組事件は、過去の戦争余談ではなくて、今日の教育問題、社会問題に、多くの暗示と反省をもたらすだろう。かつての狂信者は、日本を破滅させた。今日、軍国主義や皇室思想の復活をはかる者は、勝組と同じ狂信者であろう》(454頁)という一方的な視点で書き、当地勝ち組系論壇から大不評をかった▼高木は殺された被害者・脇山甚作元大佐を「七十一歳」(274頁)と享年すら間違えたが、平山はちゃんと「66歳」と書き、加害者側の日高徳一を「狂信者」ではなく、共感できる一日本人として描いた。かく言う邦字紙も、つい10数年前までは勝ち組側の話を記事にしてこなかった▼コロニアが分裂して、片側を〃狂信〃として切り捨てようとした時、実はもう片側も同じくらい極端に振れていたのではないか。ブラジルには〃カラ・メタージ〃(半身)という言葉がある。「運命的な恋人」の意で使われるが、コラム子にはシャムの双生児のように分かち難い「一つの身体」の印象がある▼勝ち負けは共に「コロニアの半身」であり、二つ合わせてこそ真相だ。〃時代〃は最初こそ振り子のように極端に揺れ動くが、時間と共に中心に収まっていくのだろう。(敬称略、深)