ニッケイ新聞 2013年6月8日
5月28、29日の通貨政策委員会(Copom)議事録が6日に公表され、中銀内でインフレ懸念が高まっている事が判明。市場では、経済基本金利(Selic)は年内に少なくとも2回引き上げられ、9・25〜9・5%に達するとの見通しも出始めていると7日付伯字紙が報じた。
国内消費の過熱で08年に勃発した国際的な金融危機を乗り切り、ジウマ大統領が国際舞台で成長思考を訴える理由を提供したブラジルが、経済活動の減速化を感じ始めたのは、中銀が経済経済基本金利引き下げに転じた11年後半の事だった。
基本金利引き下げは、公的負債返済時の利息額低下や、融資やローンの利用を容易にするといった利点があり、ブラジル史上初の年7・5%まで低下した時には、国内消費も含む経済活動の活性化への期待が広がった。
ところが、11年の国内総生産(GDP)の伸びは2・7%、12年は0・9%と経済活動が低迷。このため、12年中に頭をもたげ始めていたインフレ圧力に対し、基本金利を引き上げて対応する事を嫌ったのがジウマ大統領で、3月には、国際会議の最中に「金利の引き上げは病人を殺すようなもの」と発言し、中銀の独立性侵害を懸念する声まで出た。
ところが、この様相が変わったのが4月。基本金利が0・25%ポイント引き上げられ、5月には更に0・5%ポイントの引き上げが行われた。この背景には、3〜4月の食料品価格高騰などで大統領の支持率が4月時点で約10%ポイント低下した事実がある。インフレが購買力低下や債務不履行という庶民の懐に直結する問題を引き起こし、支持率を下げる事に気づいた大統領が、中銀のインフレ対策に同調せざるを得なくなった事は想像に難くない。
経済成長こそが再選の鍵と考えてきたジウマ大統領の意向の変化は、中銀により明確なインフレ抑制対策をとらせたが、通貨政策委員会後にトンビニ総裁が行った「ドル高がインフレに与える影響は限定的」との発言がどの程度的中しているかは、6月のインフレ動向を見る必要がある。
5月の拡大消費者物価指数(IPCA)は4月の0・55%より小幅の0・37%上昇でやや減速したが、直近12カ月では政府目標上限の6・5%で、基本金利引き上げはまだ続くという市場予想を裏づけしそうだ。
一方、外国直接投資の増加とドル流入を見込んで4日に発表された、外国人投資家による固定利回り商品への金融取引税(IOF)の税率ゼロ化政策は、5日午前中こそドル高傾向に歯止めをかけたものの、ジウマ大統領が「為替の上限は定めていない」と発言した事などもあり、5日、6日とドル高が進行。ドル高は国内企業の輸出力を高めてくれるが、輸入品の値上がりは物価上昇を招く危険性もはらんでいるため、インフレ抑制を重視する中銀がどのようなタイミングで市場に介入するかも注目される。