ニッケイ新聞 2013年6月15日
ブラジル日本移民105周年
15日からサッカーのコンフェデレーション杯が当地ではじまった。初戦である日伯戦が首都ブラジリアで行われるという記念すべき大会だ。来年のW杯に向け、会場運営や観客への自治体の対応なども気になるところだが、やはり国民の一番の関心事は、「代表(セレソン)がどれだけやれるか」ということだろう。ここでは10年W杯南アフリカ大会以後のセレソンの流れを見ながら、それを占いたい。
新マラカナン蹴球場の初公式戦となった2日のイングランド戦ではなんとか2対2で引き分けたが、ポルト・アレグレで9日に行われた対仏戦では3対0と快勝し、調子を上げてきているように見える。これでセレソンは本格的に「フィリポン体制」を固めるのか——今までの動きを振り返ってみた。
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現在のセレソンを見ていてひとつ気になることは、セレソンの現場での実情と、ブラジル・サッカー連盟(CBF)やファンの期待感との間にギャップが生じていないか—という点だ。
実情という点で言えば、実はブラジルサッカー界はひとつの大きな過ちをおかしている。それは、14年に自国開催があることがわかっていながら、その時期に体力的、経験的にキャリアのピークを迎える選手の強化がうまく行っていなかったことだ。
つまり、現在の20代半ば〜後半、中堅どころに世界を牽引するようなプレイヤーが少ない。2000年代まではFIFAバロンドール(世界最優秀選手)で上位争いをする選手が豊富だったブラジルが、ここ最近はスペイン勢やメッシ(アルゼンチン)や、Cロナウド(ポルトガル)の活躍に押されてばかり。
層が薄い20代後半
02年のW杯日韓大会で優勝した時以降の世代で、世界的な選手が少ない。優勝当時に年少だったロナウジーニョやカカーに次ぐ世代を育てきれず、期待されたアドリアーノやロビーニョが欧州リーグの在籍中に伸び悩んだことも響いた。
その結果、セレソンの大半が30歳前後だった10年W杯後の課題は必然的に「世代交代」となってしまった。その後をつぐ世代とのギャップは予想以上に大きなものだった。結局受け継いだのは、スペインのバルセロナFCへの移籍が決まり世界的に注目を集めている最中のネイマールやオスカール、ルーカスといった現在21〜22歳のロンドン五輪世代。
14年のW杯よりはむしろ18年や22年の大会で成熟を迎えるはずの年齢で、それゆえ現状は経験不足を露呈することも多い。だが、現状の選手層では他に方法もなかった。その意味で、10年W杯後にセレソンの指揮を受け継いだマノ・メネゼス監督の方針が誤っていたとは決して思えなかった。
だが、12年12月にマノ監督は解雇。CBFのジョゼ・マリン会長は、リカルド・テイシェイラ前会長の体制を刷新し、セレソンの活性化を狙うべく、02年時の優勝監督のフェリポン氏を監督に、94年W杯優勝監督のカルロス・アルベルト・パレイラ氏をコーディネイターに据えた「実績型」の人事を行った。
「実績型」のフィリポン
この「実績優先人事」は、若手育成型で親善試合で結果も出しつつあったマノ体制の方向性に逆行しかねない展開だった。実際、フェリポン体制のもとではマノ監督時の後半に招集されていたカカーに加え、ロナウジーニョやカカー、10年W杯の正ゴールキーパーのジュリオ・セーザル、同大会でのストライカー、ルイス・ファヴィアーノなどベテランの招集も積極的に行われた。
だが、今年に入ってからの欧州の強豪国との親善試合のほとんどを引き分けで終わらせたあと、5月14日に発表されたコンフェデ杯のセレソンは、蓋を開けてみたらベテランでの出場はジュリオ・セーザルのみであり、マノ監督が選んでいた若手主体の選出に結果的に戻っていた。むしろ、21歳のフェルナンド、20歳のベルナールなどの新顔が加わったことでさらに若くなった印象さえ受ける。
「これではマノ時代と何も変わってないではないか」との意見もあるかも知れないが、これは、フェリポンやパレイラほどの名指導者の目から見てでさえ、「伸び盛りの若手で臨むことがベスト」との現場判断が下ったということだ。
実は若手で勝負の布陣
そうと決まったら、W杯までは、今回のコンフェデ杯も含め、たとえ即効力のある結果が出なくとも「学習も必要」とセレソンを辛抱強く見守るのが得策と思えるが、気になるのは、それでマリン会長が納得するか、ということだ。マノ監督時代後期に「先発メンバーを私に見せろ」と言って干渉し、派手な指導者人事まで行った人物が忍耐を必要とする未知数な若手主体で果たして満足するか。
もっとも、W杯までにマリン氏がCBFならびに14年ワールドカップ委員会(COL)委員長をつとめている保証はない。マリン氏は1975年、サンパウロ州の下院議員だった時代に政治犯の拷問への関与を疑われ、拷問死したジャーナリスト、ウラジミール・エルゾーギ氏の遺族や94年W杯の中心選手だったロマーリオ下議が中心となったCBF委員長辞任勧告運動を起こされ、既に5万人以上の署名を集めている。この件に関しては国際サッカー連盟(FIFA)も問題視している。