ニッケイ新聞 2013年8月6日
ブラジルで初めてダウン症を乗り越えて教師となったデボラ・セアブラさん(32)に注目が集まっている。筋力をつけるためのトレーニングや演劇の練習では健常者と同じプログラムをこなし、北東部リオ・グランデ・ド・ノルテ州州都ナタルの私立学校生徒とも、生き生きと接する補助教員のデボラさんの姿は、ダウン症を抱えた人も健常者同様に社会に適応できることを証明している。
デボラさんは特殊学級で学んだことがなく、高校卒業までの全課程を健常者と共に過ごした。また2005年には、ダウン症患者としては初めて、幼児教育や初等教育(日本での小学校にあたる部分)の教師資格もえた。
デボラさんはサンパウロ州立カンピーナス大学で研修を受けた後、ナタルの名門私立校の一つである「Escola Domestica」に補助教員として就職した。勤めて始めてから、もう9年になる。
自らの学校生活を「良い経験だった」と振り返るデボラさんは、「普通の学校に通うことで、他の子供たちの仲間に入れてもらえたと感じることが出来た。偏見も乗り越えたし、友達もたくさんできた。私がそこにいたことで、多くの人たちに障害者を取り込むインクルージョン教育がどのようなもので、どのように機能するかを示せたと思う」
今年は、初等部1年生にいる6〜7歳の児童28人のクラスで、読み書きを教えるための手伝いをする任務が与えられた。
「私は子供が好きだし、忍耐力だってあるわ。(私が)怒りっぽいかって? そんなことないわ、普通よ。とてもよく子供たちに接していると思うわ」と胸を張る。
職場でも同僚の教師、職員、生徒に温かく迎えられた。時々、生徒はデボラさんの話し方がなぜ違うのかを尋ねる。「そういうときは、私の話し方はこうなの。皆それぞれ自分の話し方があるでしょって答えるの」。その機会にダウン症について説明すると、生徒たちも理解してくれるという。
デボラさんが生まれた頃、社会でのダウン症の認知度は低かった。ダウン症の子供を持つ親の多くは、いじめを恐れて特殊学級のある学校を選んだ。障害を持つ児童と健常児の接触を制限し、障害を持つ子供たちだけを集めて訓練することで社会に適応できる可能性が高まるという誤った理解をしていた。
デボラさんの両親はそれとは反対に、「娘は普通の子供」と判断したことから通常の学校に入れた。その結果、幼稚部では〃モンゴル人〃と呼ばれていじめられ、辛い時期もあったが、「モンゴル人とはモンゴルに住む人のこと」と教え、ダウン症がどういう病気かを説明する女性教師に助けられた。
ダウン症を持つブラジル初の教師として、デボラさんは今では国内各地、アルゼンチンやポルトガルでも講演活動を行う。「今でも偏見はある。でも、私の講演でそれが少しでも減ればうれしい。たくさんの教師が聴きに来てくれて、終わったら立って拍手をしてくれた」と喜ぶ。
純粋な子供に植えつけられる偏見の〃芽〃は、教育で摘み取ることができる。デボラさんのような存在は、無用な差別や偏見を社会から根絶するための大きな助けとなるに違いない。(3月2日配信グローボ局ニュースサイトより)