ニッケイ新聞 2013年8月7日
「日系人は、日系の医者に診てもらいたがるから、日系の病院なら状況は違うかもしれない」とアマンダ医師。
日系病院の代表格と言えば、援協の日伯友好病院だ。問い合わせたところ、同院でも不妊治療を行っているというので、同科を導入した二宮禎一医師(53、二世)に取材を申し込んだ。
日伯友好病院の婦人科に勤務して20余年。女性専門のペロラ・バイトン病院(Perola Byington)で不妊治療を学び、2001年に導入した。広島大学で研修したこともある。3年前には、自身の不妊治療クリニック「NIPOFERT」も開設した。
温厚な雰囲気の二宮医師は、「日本語は苦手で・・・」と謙遜しつつも、次のような状況を日本語で説明した。「卵子を求める患者は段々増えてきた。でもブラジル人の卵子提供者に比べて、やはり日系・日本人の提供者は少なく、提供を求める患者の増加に追いつかない」。つまり、前述のIPGOと同様の状況のようだ。
二宮医師はこうした違いを「日本人や日系人には『卵子をあげるのは自分の子どもをあげるのと同じ』という感覚があるからでは」と推測する。これには「その通り」とうなずく人が多いかもしれない。精子を提供する男性にはない感覚ではないだろうか。
ただし、「一度不妊治療を受けた女性は同じ立場にある人に共感しやすいので、卵子を提供してくれる可能性がある」ため、今後、不妊治療をうける女性の増加に伴い、卵子提供者は増えていくかもしれない。
「これから女性がさらに社会進出して、子どもを作る年齢が高くなれば、卵子の需要はもっと伸びていくだろう」と二宮医師。中流階級が多く、職業女性の比率も高いと思われる日系人の卵子確保は、早急の課題といえそうだ。
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不妊や高齢出産にそなえ、自分の卵子を若いうちに〃貯金〃しておく「卵子凍結」(Preservacao de fertilidade)も可能な時代がやってきた。
ハンチントン病院のジョゼ医師によれば、卵子凍結は古くから行われていた。だが、精子凍結よりも技術的に困難が多く、90年代頃は、生き残る凍結卵は半分程度だった。技術の進歩により、実用段階に入ったのはここ10年ほどだ。
ハンチントン、日伯友好病院、IPGOともに実施しており、希望者は誰でも卵子を凍結することができる。費用は、IPGOを例に取ると凍結料が1万2千レ程度で、それに月々の維持費900レがかかる。
日本では、産婦人科学会が07年から10数カ所の医療機関で卵子凍結を行っているが、一定の条件の下での試験的実施であり、一般の女性が将来の不妊に備えて卵子凍結できるにはいたっていない。
凍結卵が何年持つかは未知数だが、「25年持ったという例もある。子どもの成長に悪影響はない」とジョゼ医師。若いうちに出産予定がなく、「他人や他の人種の卵子は使いたくない」という人には、経済状況が許せば最良の選択肢といえるだろう。(つづく、児島阿佐美記者)