ニッケイ新聞 2013年8月8日
ヴィトリアに取材で行ったさい、近郊の海辺の町にすむ知人を訪ねた。同郷出身であり、笠戸丸移民の娘かつ被爆者でもあるということで、百周年時にじっくり取材させてもらい早や5年。祖母のような年齢の方と、こうした付き合いができるのもブラジルに住んでいるからこそだろうか。何かしみじみと嬉しいものだ▼偶然というべきか大潮前日。「ウニを採ろう」という話になった。釣りが好きでに移り住んだということなのだが、ウニもふんだんにある。というのもブラジル人にとっては不気味なトゲトゲにしか映っていないから処女磯といってもいい。軍手と引っかき棒を手に浜に出た▼面白いことにトルコのカッパドキアの奇岩群に似ている。その穴に全てに見事なほどウニがつまっている。みるみるバケツが一杯になっていく。10人ほどで行ったのだが、さすがは日本人、ほどなく自然に身を取る人との二手に分かれ、黙々と作業が続いた▼散歩中のブラジル人一家がおずおずと近づいてきて「何をやっているのか?」と聞く。説明すると、首をかしげ身震いする格好をして去っていく。沿岸に先祖代々長らく住んでいて、この美味に気づかないとは、よほど好奇心がないか、食環境が豊かなのだろう▼知人は毎年この時期に人を雇って収穫、冷凍しておくらしい。買い取り値段は何と1キロ20レアル。サンパウロだと軍艦巻き一貫の値段だ。しかし、その量を食べると肘ひざが痛くなること間違いない▼帰聖以来、三日に一度は冷凍庫で鎮座するレンガ状の塊を見詰め、「いつ食べてやろうか…」と一人悦に入る毎日が続いている。(剛)