ニッケイ新聞 2013年8月14日
ブラジルの旧宗主国、ポルトガルが、長引く不況の影響で歴史上最悪の人口流出に悩まされている。フランス、イギリス、ルクセンブルグ、ドイツなど欧州の隣国が主要なポルトガル人の行き先だ。しかし昨年は、いずれもポルトガル語圏のアンゴラには3万人、モザンビークに5千人、そしてブラジルには2千人以上が渡っている。
ブラジルでのポルトガル人への労働ビザ発給件数は2011年で757、2012年で1547、2171件という勢いで増えている。
ポルトガルではこの先10〜20年の間に100万人、すなわち1600万人の人口の約1割が国外流出するとみられている。「まるで大災害のようだ」とリスボン大学のジョアン・ペイショット教授は形容する。
2010年からは毎年約10万人ものポルトガル人が国を出ている。しかも、その多くが高学歴の若者だ。東ティモールで2年働く予定の経済学者のアレシャンドレ・アブレウさん(34)は、リスボン大学で修士、ロンドン大学で博士課程を修了し、移民とユーロ危機を研究した。学生生活の大半は、ポルトガル政府支給の奨学金で送った。
イギリスから戻って2年だが、固定の仕事に就くことができない。6月の失業率は17・4%、25歳以下の若者に至っては41%という高い数字だった。アレシャンドレさんはパートタイムの仕事に就いたが、月に1千ユーロ(約3千レ)の給料だった。
「(ポルトガルに)とどまろうと思ったけど、この不況では無理だった。国から奨学金をもらってこの学歴を得たのに、国で仕事がない」
出生率の低下は欧州では古い問題だが、それは移民の存在で解消されてきた。彼らのほうが子供の数が多いからだ。
ポルトガルの合計特殊出生率は、一人の女性につき1・28と低い。2011年に生まれた子供の数は9万6856人、昨年は8万9841人、今年は8万人ほどだと予想されており、上半期は死者数が1万1868人と出生数を上回った。
人口流出の危機は、他の欧州諸国に比べて著しい。「不況が出生率低下に拍車をかけた。仕事が不安定では、子供を持とうという意志も生まれない」。リスボン大学の人口動態学者、ジョルジ・マリェイロスさんはそう語る。
起業支援を行う「スタートアップ・リスボア」のジョアン・ヴァスコンセーロスさんは、「ポルトガルは昔から国外移住の国だった。でも(昔は貧困層から出ていったが)今は状況が違う。我々の国のエリートが真っ先に選ぼうとする選択肢が、国を出ることなんです」。