ニッケイ新聞 2013年9月5日
今年に入ってからのドル高は、国外旅行の経費急騰や輸入商品の値上がりなどの形で表面化しているが、ドル建てで見た今年の一人当たりの国内総生産(GDP)は2年連続で減少し、昨年末より5%減となる見込みと2日付エスタード紙が報じた。
ドル建ての個人GDPは人間開発指数などの国際指標でも使われ、ブラジルは11年に過去最高の1万2690ドルを記録。12年は1万1460ドルに減少、今年末は推定1万920ドルで、2年連続で減額の見込みだ。
一人当たりのGDP減少の原因はドル高やインフレなどで、米国で499ドルのiPadは、1ドル=2レアル以下だった4月は989レアルで買えたが、現在は1189レアルなど、ドルでの購買力低下は一目瞭然。ドル建ての外国旅行プランや国外で払うホテル代などがブラジル人の懐を直撃している事は想像に難くない。
輸入部品を使う商品や輸入品の値上がりも避け難く、国際価格が上昇した小麦を原料とする小麦粉の値上がりは、パンや麺、ビスケットなどの価格に跳ね返る。輸入品を原材料として使う割合は07年以降高まり続けており、石油化学業界は11%が21%、繊維業界も12%が22%、金属業界では13%が20%など、為替変動の影響は増幅している。国債相場との関係が強い砂糖やカカオ、パラナ栗のような純国産原材料も、ドルの動きで値段が変わる。
購買力低下は企業でも起き、輸入原材料を注文してもその後の支払い額が予想出来ず、疑心暗鬼に陥った会社もある。販売低下を恐れ、ドル高による経費増加分を製品価格に上乗せしない企業も多いが、価格調整を遅らせたり上乗せ分を抑えたりすれば、収益低下も避けられない。
国内企業の国際競争力改善を目的として行われた昨年の為替操作は、コモディティ価格上昇と重なりインフレ昂進を招いた。しかし、今年のインフレの原因は需要拡大ではなく、人件費や原材料費などの値上げ分吸収のため。投資拡大などで利益率改善を図らなければ給与調整→所得向上→消費拡大→経済成長という図式復活は困難だ。為替変動の規模や終息時期が見えぬ中、個人や企業の購買力回復の道は遠い。