ニッケイ新聞 2013年9月6日
アリアンサ郷土史研究家として知られる演劇NPO『現代座』演出家の木村快さんが、8月に日本の同時代社から『共生の大地・アリアンサ(ブラジルに協同の夢を求めた日本人)』(3500円)を出版した。帯には《そこに約束の地はあったか? 歴史の闇に塗り込められた、ブラジル移住史の真相が、いま、生き生きと甦る》とある。
『現代座』は94年に「もくれんのうた」当地公演をアリアンサと12都市で行った。その時、「私たちのことを忘れないで欲しい」と出演俳優の手を握る移住者の姿を見て「一人の日本人として決して忘れない」との気持ちを固めた木村さんは、「アリアンサ史研究会」を発足させ、97年から年2回「ありあんさ通信」を発行してきた。
現代座レポート55号によれば、当初ユバ農場から「公的な史料が見つからなくて困っている」との相談を受け、日本の専門家に聞きまわったところ、《戦前の移住資料は散逸してしまい、日本には移住史の専門家もいないという。移住博物館でも「戦前の資料はあつかっていません」とのこと。国策で二〇万人以上もの移住者を送り出し、その子弟を二〇万人以上も労働者として導入していながらそんな歴史は知りませんという国があるのか》との状態だった。
90年代後半に多くの同移住地関係者に取材した証言を盛り込み、外務省や力行会の資料などを読み込んだ末、アリアンサが祖国においては《日本政府の移住政策に批判を持ち、抵抗したため、公的ブラジル移住史から抹殺され、村の生い立ちがわからなくなった村》だとの考えに達した。
ユバとの出会いから始まり、記念碑が集まる同移住地中央公園になぜか移住地名の名付け親の碑がないこと気付き、その疑問を掘り下げる過程で、隠された移住地の成り立ちが明らかにされる。社会派現代劇の名作家として知られる著者だけに、ユバ農場の物語を軸に力行会、移住組合法運動、弓場勇や永田稠など同移住地に深い関わりのある、20年がかりで発掘された数々の逸話がどんどん明らかにされ、読み応えのある一冊になっている。