ニッケイ新聞 2013年9月10日
本紙と椰子樹社が主催する『第65回全伯短歌大会』が8日、サンパウロ市文協ビル内エスペランサ婦人会館で行われた。遠くはパラナ州マリンガなど、各地から52人が集まった。事前に募集された154首(77人が2点ずつ応募)の中で最も多くの票を獲得したのは、原君子さん(89、佐賀)の「ケイタイもメールも未だ身に付かず孫とは異なる世に住むごとし」。同年代が多くを占める投票者から多くの共感を呼び、原さんには一昨年に亡くなった清谷益次さん(ニッケイ歌壇元選者)を顕彰する目的で新設された「清谷益次賞」が贈られた。
5人の初出場者を迎え、90代も6人が参加した。開会の挨拶に立った高橋暎子さんは「短歌という文芸の灯を一日でも長く繋いでいくためには、皆さんが健康であることが最も重要。生活の向上や英気を養うことに繋がる大会に」と明朗に呼びかけ、会場からは大きな拍手が沸いた。
ニッケイ新聞から出題された席題は「寒波」。50年ぶりとも言われる強い寒さに見舞われた今冬を思い出しながら、参加者らは辞書を手に頭をひねった。
互選により21票を得て、見事1位に輝いたのは小濃芳子さん(81、大阪)の「青首の大根うまし六月の寒波が育てるふるさとの味」。小濃さんは「〃6月の寒さ〃というのは、ブラジルならではの事柄で、日本にはないもの。コロニアらしい一首だからこそ、皆に選んでもらえたのかな」とはにかんだ。
独楽吟競詠では、若山牧水の「白鳥は悲しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ」を題材に、「は悲しからずや」と「ず」の部分を使う約束事が交わされ、参加者はその場でアイディアを絞った。
昼食を挟んだ後には、女性が書いた上の句に、男性が下の句を付けて完成させる「アベック歌合せ」が行われた。高点歌の批評と鑑賞では喧々諤々の議論が飛び交うなど、短歌三昧の一日を楽しんだ。
短歌歴1年、初参加で席題の部8位に輝いた坂上美代栄さん(74、愛媛)は「選ぶ人の好みがあるとは思うけど、何が良かったのかわからない」と謙遜しながら、「皆さん本当に上手だなと感心した。凄く勉強になったし楽しかった」と笑顔を見せていた。
以下、各部門成績(順に1〜3位、敬称略)。
◎事前応募作品=「ケイタイもメールも未だ身に付かず孫とは異なる世に住むごとし」(原君子、29票)、「「又来る」と母を抱き締め薄き背を撫でつつ思うその日あるやと」(早川量通、27票)、「「ありがとう」と言えば心に幸せが満ちくるなぜか言葉の不思議」(富樫玲子、21票)、「行く末はいずこの書架に収まるやわが師にも似る辞書の幾冊」(小野寺郁子、同)
◎事前応募作品合計獲得票=早川量通(44票)、金谷はるみ(34票)、原君子(32票)
◎席題作品=「青首の大根うまし六月の寒波が育てるふるさとの味」(小濃芳子)、「故里は寒波の続く日々なれど国際電話の声あたたかし」(川上淳子)、「この日頃寒波のつづく庭に咲くつつじは真紅に咲きて燃えたつ」(山岡樹代子)