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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(3)  

 

ニッケイ新聞 2013年9月14日

 

「どうぞ」と言いながら、ジョージの目は強盗達が逃げ込んだ潅木を睨んでいた。
「ありがとうございます。・・・」ボーズは、まだ少し震える手で合掌して、やっとジョージの指示に従った。
 ジョージは、拳銃をズボンのバンドにさし込み、ボーズが引いたトランクを手早く車に詰め込みながら、
「バッグの取っ手がこわれていますよ」
「今、強盗みたいな人に壊されました」
「みたいじゃなく、奴等は強盗です。まだこの辺にいますから急いで・・・」
ジョージは後部ドアを開け、
「すみません、少し詰めていただけませんか」
 この言葉で、後部座席の三人がいやいやながら身体を寄せると半人分の隙間ができた。ジョージはその隙間にボーズを押し込み、法衣がはさまらないように注意しながらドアを閉めると、運転席に飛び乗り急発進した。
 ホッとして安全ベルトを締めながら、
「怪我はないですか?」
「だっ、だ、大丈夫です」
「よかった、怪我なく。なにか被害は!?」
「腕時計と、・・・」
「それとなにを?」
「ドルを・・・」
「どの位?」
「全部渡しました」
「全部取られたんですか、残念!、もう少し俺が早ければ・・・」
「い、いえ、助かりました」
旅僧は少し落着きを取り戻し、
「貴方の車に驚いて彼等は逃げだしました。本当に危ないところを・・・」
ジョージは元刑事らしい観察力で、
「奴等の惨めな身なりからして麻薬患者です。だから、麻薬のお金が入った瞬間、貴方に興味なく解放したんです」
 ブラジル在住の日本人が、
「しかし、危ない事するなー、我等が撃たれたら如何なる!」
 後部座席のぎゅぎゅう詰めとは対照的に、ゆったりと助手席に座っている背の低いチャッカリ男が、
「だが、オッショさんをあんな所に放ったらかし出来ねーし・・・」ジョージの行動を正当化しようとしたが、他の日本人も、
「それにしても、本当に危ない事するなー」と非難した。
「麻薬患者は拳銃より麻薬が優先です。だから拳銃所持は考えられません」
「どうしてそう確信出来る?」