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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(7)

ニッケイ新聞 2013年9月20日

 ジョージは職業柄、観光案内も入れて、
「東洋街に日本語で対応出来るホテルがあります。地下鉄にも近く、正面に居酒屋『かぶき』と『ブエノ』、隣は韓国レストラン、その横に日本食料品店『カナザワ』、色々なアマゾンの強壮剤とかプロポリスを売っている『ムラちゃん』健康食品店、夜は、たくさん日系人が集まるカラオケ『チカラ』、それに『そよ風』と云うナイトクラブ風のカラオケなどがあって便利です」
「じゃー、そのホテルを紹介してくれませんか」
一方通行で遠回りになったが、ジョージはその四十男をニッケンホテルへ案内し、一人後部座席に残った旅僧をそのまま乗せて自社へ向かった。
「ナカジマさんは、どうします?」
「井手和尚に会ってから、身のより所を決めようと思います」
「えっ!」ジョージは少し顔をしかめ、ブラジル人以上にのんきな旅僧に、
「とりあえず、私の事務所にお連れします。そこで、そのイデ・オショウと連絡を取りましょう」
「ありがとう御座います」そう言って中嶋和尚はジョージにダライ・ラマの様に両手を合わせた。
 東洋街の中国人雑貨店の上にあるジョージ経営のインテルツール旅行社の応接間兼会議室に中嶋を案内し、
「朝の被害は血が流れなかった事で、警察は事件として本気で扱ってくれません。面倒だけが残りますので訴えるのはやめましょう。さっきのボーズさんの住所を見せて下さい」
 中嶋は、さっきの手紙が入ったポリ袋をジョージに渡し、
「二年前に亡くなりました父の遺品から出てきました」
「かなり古いですね」
「日付は昭和六十二年で、西暦では・・・・・・、一九八七年です」
「とすると・・・、この手紙は二十年前のものですね」
刑事時代の癖でジョージが、
「それで、ブラジルに来た動機は?」
「この手紙の送り主の志に打たれ、どうしても会いたくて」
「それだけで地球の裏側まで飛んできたんですか!?」
 二世のジョージにはブラジルまで来る動機にならないと思われるが、訪ねるボーズによほど魅力があるのであろう。ジョージは手紙の裏を見て、
「アルファベットの住所は読めますが、この漢字は?・・・」
「『井手善一』さんです」
「名前はイデ・ゼンイツさんで、住所は・・・、イシズカ宅の、カフェザル区、ローランジア市ですね」ジョージは小さなメモ帳にローマ字で書き写した。