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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(8)

ニッケイ新聞 2013年9月21日

「ジョージさん、このPEはなんの意味でしょうか?」
「これ、よく見るとPEではなくPRですよ。パラナ州の略号です」
「州を表すのですか」
「ローランジア市はパラナ州のどの辺かなー?」ジョージは、ブラジル全土の業務用地図を持ち出し、会議用の大きな机に広げ、指で指しながら、
「ここが、俺達がいるサンパウロで・・・、ローランジアは・・・、ここです。パラナ州の北部のこのロンドリーナとこのマリンガ市の中間のこの小さな町です。PE記号はこのペルナンブコ州で、二千五百キロ離れています」
「正反対で遠くの州ですね。だから、何度手紙を出しても送り返されたのですね・・・。それで、ブラジルまで行かないと、と思い飛んできたのです」
「そうだったんですか。何とかして、イデさんと連絡をとりましょう。この手紙預かっていいですか?」
 そこに、ジョージよりも実権を握ってきたベテラン女子事務員が二人の様子を伺う魂胆でコーヒーを持ってきた。
「おっ、カヨコサン気が利くなー。この方ナカジマさんだ」
「中嶋です」
 カヨ子さんの望み通り、ジョージは中嶋を紹介した。
 カヨ子さんは中嶋和尚に頭だけを下げ、ポルトガル語で、
「(インテルツールの乗客リストに無かったわね。なのにどうして面倒見ているの?)」
コーヒーを中嶋に勧めながらジョージもポルトガル語で、
「(どうでもいいじゃないか、そんな事!・・・)」
「(別に文句なんか言っていません。ただ、会社の事を考えて聞いているんです)」そう言って、プンとして彼女は出て行った。
その態度に頭をかきながらジョージが、
「イデ・ゼンイツさんをなんとか探しますから、その間、長旅でお疲れでしょうからここで休んでて下さい」そう言って、窓とは反対側の壁に沿って置かれたソファーを勧めた。
「ご迷惑おかけしてすみません」
 中嶋は素直にその座り心地のいいソファーに移り座った。
 ジョージは、今まで無関心であった宗教関係とあって、どこから探し始めていいか分からず、仕方なく喧嘩相手のサンパウロニッケイ新聞の日本人記者に電話する事にした。
【はい! サンパウロニッケイ新聞です】
「フルカワ記者お願いします」
【少々お待ち下さい】待つのが嫌いなジョージは電子音楽を三十秒近く聞かされ、イラついた。