ニッケイ新聞 2013年9月25日
20日、来年2月にアメリカで開催される映画の祭典「アカデミー賞」の外国語映画賞へのブラジル代表作品として、クレベール・メンドンサ・フィーリョ監督(45)の「オ・ソン・アオ・レドール(O Som ao Redor)」が選ばれたが、これは現在のブラジル映画界の流れ上、非常に意味のあるものとなった。
メンドンサ・フィーリョ監督は北東部ペルナンブーコ州の出身で、もともとは映画評論家として知られていた人物だ。自身の運営する映画サイトやフォーリャ紙をはじめとした新聞などで映画評も書いていた。
同監督は1997年頃から短編映画を撮り続けてきたが、2013年に発表した初の長編映画が「オ・ソン・アオ・レドール」だ。監督の地元、ペルナンブーコ州に生きる新興中流階級の人々の静寂の中にある危険な苛立ちを描いた映画は、わかりやすい筋書きがあるわけでもなく、抽象的で、全国的に有名な俳優も誰も出演していない。
いわば映像による詩的表現で現在のブラジル社会の一断面を描いた作品で、2012年のサンパウロ国際映画見本市などでも既に、優秀作品に選ばれていた。ブラジルでの全国公開は今年1月4日だったが、公開されるやいなや批評家から大絶賛され、大きな配給がついていない作品としては異例のヒットとなった。
ブラジル映画の場合、テレビドラマも映画もグローボ・グループが一社独占状態になっている。ブラジルの人気俳優のほとんどが同社契約と言っても言い過ぎではないし、ブラジルで全国公開される国産映画のほとんどがグローボによるものだ。だが、メンドンサ・フィーリョのこの作品はグローボの歯牙にはかかっていなかった。
メンドンサ・フィーリョは今年2月、同映画が8万人を動員するヒットとなっていたときに、グローボ・フィルム取締役のカドゥ・ロドリゲス氏から「君の映画が20万人の客を呼べるなら力になるんだがね」と言って断られたいきさつを明かした。さらにメンドンサ・フィーリョは同氏を皮肉って「グローボのやり方で映画を作れば、それがたとえシュラスコのパーティを撮影しただけの映像でも20万人呼べるんだよ。彼はたいそうな映画批評眼の持ち主だね」と語り、映画界に波紋を投げかけた。グローボ・フィルムは公開する作品の傾向が似通っていることをしばしば指摘されている。
「オ・ソン・アオ・レドール」は「ネイバーリング・サウンズ(Neighbouring Sounds」の名で国内外でも多くの国際映画祭で上演されている。ニューヨーク・タイムスなどで絶賛を受けたことで、国際的な注目度もあがっている。
アカデミー賞の外国語映画賞は英語圏以外の全ての国の英語以外の作品が対象となり、来年の1月には2月の授賞式への最終ノミネートとなる5作品が決まる。ブラジル映画では、過去4度、この最終の5組まで残ったことがあるが、同賞に輝いたことはこれまで1度もない。