ニッケイ新聞 2013年9月26日
【なに野暮な事を・・・、俺達一世に悪者がいるはずないだろう! 詳しくは邦字新聞に載っているがね】
「カンジが読めるだけで優越感持ち、悪い事は全て二世だと人種差別しやがって・・・、一世のヤボ記者」
【なんだとー! 俺が野暮記者なら、お前はヘボ刑事だ! だからブラジルは検挙率十五パーセントの犯罪蔓延国なんだ】
理屈が嫌いなジョージが、
「・・・。喧嘩は止めよう。今日は協力し合おうじゃないか」
【協力? お前から一方的な情報要請じゃないか、どいつもこいつも、新聞屋は便利屋だと思いやがって・・・】
「で、ボーズの件だが、・・・」
【何故、ボーズの事を知りたいか、理由だけでも知りたいね】
「ローランジアのイデ・ボーズを頼って、日本から若いボーズが来たんだ」
【えっ! 日本から若い坊主が来た! それはうれしいニュースじゃないか。よし、その情報と交換で教えてやろう。ローランジアの今の住職は、井手じゃなく、これも三、四年前日本から来た若〜いボーズで、名前は、え〜と、俺の記録では、黒澤和尚だ】古川記者は少し考えて【ローランジアにはむか〜し大酒飲みで偉〜いボーズがいたが、そのボーズの名が井手だったかどうか・・・。俺の記憶では、あの寺の住職はいつも宮城県出身だ。そうだ! 宮城県人会に問い合わせろ。それから、ボーズと呼ぶのは止めてボンさんとか和尚と呼べ、そうしないとボーズに失礼だぞ】
「・・・? ボーズとかオショウとか、オテラとかジンジャとか、二世には同じようなものだ。・・・、ミヤギ県人会の電話番号をくれ」
【面倒くせーなーほんとに、ちょっと待て・・・。あった・・・、三七五四、六○六一、会長は中沢だ。で、その日本から来たボーズはどんな奴だ?】
「ボーズじゃなくオショウと言うんじゃなかったのか? ・・・、俺、ちょっと急いでいるから・・・」
【待て、ジョージ! その日本から来たボーズ、じゃなく和尚の名は?】
「じゃー」『ツー、ツー、ツー』
ジョージは古川記者の執拗な取材を無視して電話を切ると、そのまま受話器を下ろさず、今もらった番号にかけた。
【宮城県人会です】最初から日本語での応対である。
「ナカザワ・カイチョウさんお願いします」