ニッケイ新聞 2013年10月2日
事務所に戻ったジョージは、早速、電話で聖心寺の宿利晃天和尚と明日の午後の約束を取った。
気の強いカヨ子さんが珍しく弱った顔で、ジョージの前に来て、
「(あの〜、会議室のおボーさん大丈夫かしら、まだ眠っているわよ)」
「(そのまま寝かせておいた方が・・・。だいぶ疲れているようだし)」
「(でも、あのままではおボーさん、かわいそう)」
「(かわいそう? カヨコサンも意外と優しいとこあるんだな)」
「(あたりまえでしょう! で、朝からなにも食べてないし、今夜は何処に泊まるのかしら? ホテルの予約もないようだし、それに、ホテル代持ってるのかしら・・・)」
「(奴は強盗に遭って一文無しだ・・・。う〜ん、どうしようか・・・、困ったなー)」ジョージは一時うつむいて考え込んでから、
「(今日はー、とりあえず、俺の家に泊まらせよう)」
「(また、そんな・・・。可哀そうだからって、そんなにまで・・・、社長はいつもこうだから、少しは会社の事も考えて下さい。それに、うちを利用した客でもないし・・・)」
「(しかし、ほっとくわけには・・・)」
「(後で、おボーさんの面倒みろ、なんて言わないで下さいね)」
「(だから、奴が訪ねてきたボーズを全力で捜しているんだ。・・・、それにしても腹へったな。何でもいいから頼んでくれ)」
「(もう二時半よ。こんな時間に、無理だわ。・・・)」口癖で「(社長はいつもこうだから)」と、ぶつぶつ言いながらも、嫌われるくらい強引なネゴで有名なカヨ子さんは近くの観音レストラン『ポルケ・シン』に電話した。
「(オーナーのマエダさん、お願い)」
【ハィー、前田ですー】
「私ですけど」
【?・・・、どなたですか?】
「私よ!」
【だから、どなたでしょうか?】
「分ってるでしょう!」
【はっ? すみません、見当つきませんけど・・・】
「カヨ子ですよ!」
【どこのカヨ子さんでしょうか?】
「ま〜、テッキリ私を憶えていると思ってたのに、マエダさんって意外と冷たいのね」
【そんな事ありませんよ】
「ほんとかしら・・・、じゃー、注文するから、メモして」
【恐れ入ります。もう、昼の注文は受けられません】