ニッケイ新聞 2013年10月5日
ピアウイ州のセーラ・ダ・カピヴァラには、アメリカ大陸では最古の5万年前の遺跡があり、現在、ブラジリアで出土品の展示会が開催されている。
セーラ・ダ・カピヴァラの遺跡発掘の責任者を務めているのは、フランス人の父を持ちサンパウロ市生まれの考古学者、ニエデ・ギドンさん(80)。ピアウイ州内陸部の遺跡発掘は1970年に始まったフランスとの共同事業で、ギドンさんはその当時から陣頭指揮をとっている。
アマゾンの熱帯雨林と大西洋岸森林地帯の境に位置するセーラ・ダ・カピヴァラの洞窟の中からは、動物や狩り、何かの祭典、性生活の様子までを描いた壁画が非常に良い状態で見つかっており、ギドンさんも「こんなに大量の岩に描いた絵が見つかる事は珍しい」と明言。岩に描かれた壁画は、ヨーロッパやアフリカで見つかった岩壁画と同じ、2万9千年位前のものだという。
遺跡からは焚火をした後の消え炭など、生活臭の強いものも見つかっており、こちらはアメリカ大陸で見つかった遺跡の中では最も古い5万年前のものとされている。ギドンさんによれば、ピアウイ州で見つかった遺跡の主はアフリカから来た人々に違いないとされ、従来から言われてきた、米州大陸に最初に住み着いたのは、アジアからベーリング海峡を渡ってアラスカを目指した人々で、到着したのは1万2千年前位との学説を覆す大発見だ。
米州では、メキシコのヴァルセキーロやチリのモンテ・ベルデなど、数千年前程度に出来たとされる遺跡も見つかっており、米州大陸への人の動きは、様々な時期に様々なルートで起きたとの説が強まっている。
現在のセーラ・ダ・カピヴァラは、「カアチンガ」と呼ばれる激しい乾燥地帯だが、古代は海の底だったとされ、岩だらけでダイナミックな景観は、北米のグランドキャニオンを彷彿とさせる。1991年にユネスコの世界文化遺産に指定されており、岩に描かれた壁画からは、現在の気候や地形からは想像出来ないほど豊かな生活を送っている様子をうかがい知る事が出来るという。
ブラジリアでは2日から、欧州連合(EU)の支援を受けた展示会が開催されており、セーラ・ダ・カピヴァラで発見された壁画や土器、矢じりといった人の手が加わったものや、大型のナマケモノやゾウの親戚に当たるハプロマストドンテと呼ばれる動物などの骨片など、数百点に及ぶ出土品が出品されている。
世界文化遺産に指定された場所は、年間数百万人という観光客が訪れるのが普通だが、セーラ・ダ・カピヴァラでは、年間2万人程度。同地域の人々が動植物を乱獲した結果、生態系が狂い、シロアリが異常発生して遺跡が破壊されつつあるともいう。ピアウイ州が貧しい州だと知る学識者達は、ダイナミックな景観や遺跡の存在を広く知らせ、観光資源としてはと提案するが、「自然や遺跡を守るには現地の人々の基礎教育から始め、現地の人々が自分達の手で遺跡を保護しようと考えるような意識改革が必要」という声に従った教育改善運動なども展開されている。(3日付G1サイトなどより)