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「文学は社会を変える」=書籍見本市で作家がスピーチ=ブラジルの現実を赤裸々に=副大統領にブーイングも

ニッケイ新聞 2013年10月11日

 ドイツのフランクフルトで開かれている世界最大の書籍見本市「第65フランクフルト・ブックフェア」。今年の特別招待国はブラジルだ。9日からの一般公開に先立ち、8日に行われたオープニングセレモニーにはミシェル・テーメル副大統領、マルタ・スプリシー文化相が出席したが、70人のブラジル人作家訪問団の一人、ルイス・ルファットはスピーチで、ブラジル社会の不平等を表現し、観衆の喝采を浴びた。
 ドイツでよく読まれているブラジル人作家の一人で、非識字者で洗濯婦の母、半識字者でポップコーン売りの父を両親に持つルファットは、「〃抑制のきかない資本主義〃が比喩にならない場所、世界の周辺部にある国で、作家として生きるとはどういうことでしょうか。私にとって、書くことは〃責任〃(コミットメント)です」との言葉でスピーチを始めた。
 「ブラジルはパラドックスの国。エキゾチックで楽園のような海岸があり、エデンの園のような自然、カーニバル、カポエイラ、サッカーがある一方、都市部の暴力犯罪、幼児売春の横行、人権への軽視、環境破壊など忌まわしい部分もたくさんある」とし、ブラジルを〃パラドックスの国〃と表現した。
 初期のポルトガル人の植民政策、インディオの大量殺戮についても触れ、「ブラジルが発見された1500年は400万人いたインディオが、現在は90万人に減った」と話し、他にも世界で7番目に発生件数が多いドメスティック・バイオレンスその他の犯罪の多さ、白人、有色人種間での教育機会や富の分配の不平等、同性愛者への差別などにも言及した。
 「ブラジルの歴史は、いわば暴力と無関心でもって、他者を排他的かつ明確に否定することで成り立ってきた」、最後には「一冊が人の人生を変えることがあるなら、文学は社会を変えられるかもしれない」と述べて終了、スピーチが終わる頃にはテーメル副大統領にブーイングを浴びせる声もあり、観衆からは大きな拍手が起こった。
 ブラジル側の作家陣、関係者の間からも「彼はありのままのブラジルを表現した」とスピーチを賞賛する声が上がる中、ルファットは「もう亡くなった両親へのオマージュのつもりだった。彼らは今のブラジル社会では忘れられた一部だった」と話している。
 ブーイングを浴びせられたテーメル副大統領はといえば、ルファットのスピーチに影響されたのか、スピーチの中で展開されたブラジルへの強い批判に応じようと思ったのか、用意していたスピーチ原稿を読まず、自分が女性教師に影響されて読書家になった子供時代のことを語り、詩集を出していたことなどを明かした。
 この副大統領のスピーチについて、「副大統領という人物が公式の場で、即興でスピーチをすべきではない」と辛口のコメントをした有名漫画家のゼラルドは、ルファットのスピーチも「ああいう場でする話ではなかった。グーグル検索をすればわかるようなブラジルの悲惨な部分をさらけ出しただけ」と批判している。(9日付エスタード紙などより)