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最高裁判事が有名人のブラジル=大統領選出馬も望まれたバルボーザ長官

ニッケイ新聞 2013年10月16日

 連邦最高裁のジョアキン・バルボーザ長官は14日、国民から期待されていた14年大統領選への出馬を改めて否定した。
 日本のように普段、最高裁判事の名前に馴染みのない国では「最高裁長官がなぜ大統領候補に」と不思議に思われるかもしれないが、ブラジルの最高裁判事は、人によっては有力政治家より国民への知名度の高い存在でさえある。
 ブラジルにおける「最高裁判事」は特に尊敬度の高い役職のひとつだ。それは同職の給与が、法により「給与額の上限」として定められていることからもあきらかだ。
 そこに加え、昨年は、「ブラジル史上最大の政治汚職事件」と呼ばれるメンサロン事件の裁判が行なわれた。ブラジルでは現職議員の汚職事件は厳しく罰せられないのが慣例だったが、この裁判ではそれが覆され、現職議員にも実刑が課せられた。この裁判で報告官をつとめ、厳罰を求めたことで注目されたのがバルボーザ氏だった。
 激しい剣幕で正義を唱えるバルボーザ氏の姿は雑誌やテレビでも特集され、一躍有名人となった。最高裁長官への就任はこの裁判が行なわれている最中で、就任と同時に、アメリカやフランスの一流大学で博士号を取得したことや3カ国語に堪能なことなどの万能ぶりも紹介された。国民の間からは「是非とも次期大統領に」との期待感も盛りあがり、今年6月に全国で起きた「マニフェスタソン(抗議の波)」の際、サンパウロ市パウリスタ大通りで行われた「次期大統領になってほしい人」というアンケート調査では、本人に出馬の意思がないにもかかわらず30%の支持を得、1位になったことがあった。
 また、メンサロン裁判は新聞や雑誌が詳しく報道、最高裁での審理の様子はケーブルTVやネットを使った実況中継も行なわれたため、同裁判に対する全11人の判事の見解の相違やその傾向までが国民に把握されるという、日本では想像さえできない事態も起きた。
 たとえば、本裁判や、今年の8〜9月に行なわれた同事件の上告裁判でバルボーザ長官としばしば衝突したリカルド・レヴァンドウスキー副長官は、国民からは「悪役」的な印象さえ持たれているが、同裁判は最高裁判事の中でも判断が割れているため、「バルボーザ派」「レヴァンドウスキー派」のような見られ方もしている。今年9月の「あと一票で上告裁判終了か継続かが決まる」という状況でのセウソ・デ・メロ判事の投票の瞬間には、国民がネットに張り付いて速報を見守るという事態も起きた。
 「メンサロン裁判」をいわば国民的な関心事にまで高めたバルボーザ長官だが、結局14年の大統領選には出馬しない。だが、「70歳の定年(バルボーザ氏の場合は2024年)まで最高裁に残るつもりはない」とも語っており、その後の政界進出の可能性も否定していない。バルボーザ氏の最高裁長官の任期は14年11月22日までだが、各政党によるバルボーザ争奪戦はそこからはじまるかもしれない。(15日付エスタード、フォーリャ両紙などより)