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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(24)

ニッケイ新聞 2013年10月16日

 ひと摘みしたジョージが、
「この材料は?」
「冷蔵庫にありました」
「えっ、本当ですか。料理上手の女にふられてから、ずっと買って無いので」
「そうでしたか、だからほとんどが期限切れでした。ですが、もったいないと思い、充分吟味してから使いましたのでご心配なく」
「料理、おじょーずですね」
「二年間、修行で、精進料理を作っていました」
「ショウジン料理?」
「仏教の精進の思想から、肉類を避けて野菜だけを用いた料理です」
「美味しいですね。で、シュギョウと料理とどう云う関係があるんですか?」
「食事は生命の維持につながる大事な行事です。それに、野菜と云えども命があります。だから、それに感謝しながらの料理は修行です。ブラジルで初めて食べたあのラーメンで、その意味がハッキリ理解出来ました」
 食事をしながら、お世辞が嫌いなジョージが「美味しい」を連発した。
「与えられた材料に感謝しながら最良の料理を作るのが精進料理です。喜んでもらえて、よかったです」
 ジョージは最後の『喜んでもらえて、よかった』の言葉に、いつも的中するいやーな中嶋和尚とのこれからのかかわりを心配した。

 昼食の後、二人は仏創宗の寺を訪ねた。
「シュクリ・コウテン・オショウいらっしゃいますか」
 庭の手入れを止め、宿利晃天和尚が二人を迎えた。
「私です」
「昨日、電話したジョージです。こちらは日本から来られた中嶋さんです」
「初めまして、中嶋孝仁(こうにん)です」
「どうぞ、こちらへ」お寺の事務所に案内された。
 三人が椅子に落着くと、宿利和尚が出した名刺に応えて、ジョージも名刺を出した。宿利和尚がその名刺を見ながら、
「インテルツール旅行社のジョージ上村さん、・・・。で? 御用件とは?」
「イデ・ゼンイツさんの事を知りたいんですが」
「井手善一?」宿利和尚はちょっと間を置いて「ちょっとお待ち下さい」そう言って棚の古びたノートを出して確認し、頷きながら、
「ああ、やっぱり伝道和尚の事だ。それで和尚のなにを知りたいのですか?」
「中嶋さんはその方に会いに日本から来られたんです」