ニッケイ新聞 2013年10月18日
伝記のあり方をめぐりブラジルのマスコミ界が揺れる中、ブラジル音楽界を代表する男性歌手、シコ・ブアルキが思わぬ失態をおかしてしまった。
11日付本サイトでも報じたように、カエターノ・ヴェローゾやロベルト・カルロスら、ブラジルを代表する音楽家7人が「プロクーレ・サベール」という団体を立ち上げ、伝記に関する事前了承や肖像権支払いの義務付けなどを求め、出版社や著者を相手に抗戦の構えを見せている。
この動きは、フェルナンダ・アブレウやフレジャットといった、「プロクーレ〜」の後輩世代にあたる音楽家の支持を得た。だが、同じ音楽家でも、現在のブラジル音楽界名物の毒舌家として知られるロック歌手のロバオンは「プロクーレ〜」の動きに批判的な見解を示した。ロバオンは自らの伝記を書下ろし、ベストセラーにしたことでも有名だ。ほか、アルセウ・ヴァランサ、ナナ・カイミなども批判の意を示した。
この伝記論争は新聞やテレビでも取り上げているが、報道側は伝記作家の「表現の自由」を支持する傾向が強い。
16日放送のGNT局の女性トーク番組「サイア・ジュスタ」では「プロクーレ〜」代表のパウラ・ラヴィーネ氏が出演し、女性ジャーナリストたちと討論を行なったが、討論相手となったフォーリャ紙の女性ジャーナリストから「日和見主義」「ガナンシオーザ(金に汚い)」などの罵倒を受けた。ラヴィーネ氏はカエターノのマネージャーで、かねてからその商業的敏腕さを揶揄されることが少なからず起きていた。
また17日付エスタード紙の文化欄でも伝記論争に関する識者の討論記事が掲載されたが、「軍政時代(1964〜85年)に検閲を受けてきた時代の歌手たちがなぜ」との主張が目立った。
その最中の16日、「プロクーレ〜」の1人であるシコ・ブアルキが同団体に不利になる失態をおかした。シコは16日付のグローボ紙に手記を寄せ、その中で、回収されたロベルト・カルロスの伝記「デターリェス」の著者パウロ・セーザル・アラウージョ氏を批判した。シコはそこで「あの作者は10数年の月日をかけた本だと言ったが、それはデタラメだ。取材なんてされた覚えのない私の証言が載っているんだから」と書いた。
だが、アラウージョ氏はすぐさまそれに反応し、1992年にシコに対して取材を行なった際の写真と録音テープをグローボ紙に提出。写真はすぐさまネットに出回り話題となった。翌17日にシコは「質問は覚えてなかったけど、間違えたのはたしかだ」と過ちを認めた。だが、このシコの勘違いは、伝記作家が確かな取材のもとで執筆を行なっていることを皮肉にも印象付けることとなってしまった。
また奇しくも17日、シコの妹で前文化相のアナ・デ・オランダ氏の伝記論争に関する見解がグローボ紙サイトで掲載され、アナ氏は伝記作家側の見解を支持している。
この問題に関しては、ジョアキン・バルボーザ最高裁長官も14日に見解を発表。長官は「人権侵害にあたる表現は問題視しなければならない」としながらも、「伝記の発行には事前了承の必要もなく、回収にも賛同しない」と語っている。(17日付G1サイトなどより)