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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(29)

ニッケイ新聞 2013年10月23日

 中嶋和尚は、この法要の謹行により、お『釈迦』さま直々の免状と不思議な力を授かった。
「中嶋和尚、ご苦労さまでした。お茶を用意しております。こちらヘどうぞ」西谷の顔が前よりも明るくなっていた。
 法要を始める前よりも頬がくぼんだ中嶋和尚だが、一回り大きくなった様に、西谷は思った。
「不思議な事に、見知らぬ観音さまが現れ、私達を優しく雲で包みました」
「どんな方ですか?」
「観音さまは色々なお姿に化身されてお現れになりますので、小さい頃から図鑑などで勉強してきましたが、まだ私が知らない観音さまがおられるのですね」
「ブラジルの観音さまなのでしょうか?」
「検討がつきません」
「中嶋和尚、お疲れのようで、こちらにお座り下さい」
 西谷は椅子とお茶を勧めながら、
「御経をあげるのは並大抵の事ではありませんね」
「そうですね。西谷さんもご経験がおありですね」
「アマゾンの配耕地で、坊さんの真似事をして仲間を弔ってきました。ですが、その弔い中、どうしても私が入り込めない不思議な世界と云うか領域が前にはばかって、いくら頑張っても本当の供養が出来なかったです」
「不思議な世界ですか、それは霊域と言ってもいいのではないでしょうか」
「ですから、仏教を知らない私には無理でしたね。きっと、お坊さんしか出来ない何かが有りましたよ。今、中嶋和尚の読経を聞いていると今までに経験した事がない安らぎと云うか・・・心が和みました」
「それは西谷さんが仏を心から信じておられるからです」
「残念ながら、この安らぎはアマゾンでは感じる事が出来ませんでしたよ」
そう言った西谷はハットした表情で、
「この安らぎをトメアスの仲間に・・・、そうだ! 中嶋和尚! トメアス配耕地に同行してくれませんか!」
 西谷は突然、自分だけ納得した顔で、
「そうだ、そうなんだ。第三トメアス配耕地に一刻も早く戻らなくては」
「トメアス?」
「仲間が待っています! 仲間が待っているのです。数十年も、仲間がこの安らぎを得る為に、アマゾンの奥で本当の供養を待っています! お願いです。中嶋さん!」
 あくる日の夕方、ジョージがアパートにもどると、
「あれは?」棚に拳銃と場所を分け合って小さな祭壇が飾ってあった。