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アルゼンチン=最高裁判決でクラリン敗訴=最大手メディアが窮地に=一方で国営放送は急拡大=「真正の帝国主義」との批判も

ニッケイ新聞 2013年10月31日

 29日、アルゼンチンのクリスチーナ大統領が推し進め12年12月に発効されていた「メディア法」に対し、異議を唱えて提訴していた同国最大のメディア・グループ「クラリン」社が最高裁で敗訴した。これにより、同大統領と激しく対立していた同社が業務大幅縮小を余儀なくされることになった。ラ米諸国のラジオ・テレビ局が集まる国際放送協会は「真正の帝国主義」と批判の声を挙げている。30日付伯字紙が報じている。

 メディア法は2009年に亜国連邦議会を通過し、12年12月から発効していた。民間企業に認められる放送・報道メディアの数を限定する法律で、例えばクラリン社は収益の68%をケーブル・テレビ局で稼いでいるが、同種局を経営している企業はテレビやラジオ放送を兼業できなくなった。
 また民放テレビ局、公営放送局、公益団体(宗教など)放送局の数はそれぞれ放送局全体の3分の1まで、一民間放送局が市場とできるのは国民の35%までなどの規定がある(公営放送局は制限なし)。ブエノス・アイレス州だけで全国民の40%近い人口を誇るので、クラリンは他州への放送を禁じられる。
 クラリン社は新聞だけで7紙、ケーブル・テレビの「カブレヴィジョン」、8局の民法テレビ局、ラジオ局、インターネット、250の放送報道特許を持っているが、24に制限される。
 同社はメディア法の41、45、48、161条の四カ所に異議申し立てをしていたが、29日、最高裁は判事投票4—3で合憲判決をした。
 これを受け、同社は「判決は尊重する」としながらも、この急激な縮小命令に対し「侵害的だ」と遺憾の意を表明し、さらに国際裁判所への告訴することへ含みを持たせた。
 クリスチーナ氏の夫で前大統領のネストル・キルチネル大統領の政権時(2003〜07年)には互いに友好的だったが、08年に農家の抗議運動の際に、現政権を批判して以来、強硬な批判を繰り返してきた。クリスチーナ政権は09年に同社からサッカー全国選手権の放送権を奪い、11年には新聞紙配紙を国有化し民間紙に打撃を与えるなどの政策を行なってきた。
 この判決に関し、脳出血の手術を受け療養中のクリスチーナ大統領の声明は出されていない。
 北中南米諸国の1万5千社のラジオ・テレビ局が集まり、表現の自由を求める国際放送協会(AIR)のアレャンドレ・ジョビン会長(ブラジル人)は、「真正の帝国主義だ」と批判している。というのも現政権は批判を繰り返すクラリン社を弾圧する一方、政権の意のままになる国営放送局を巨大化させているからだ。「この10年間だけで国営放送へ支出される金額は1300%にも膨らんだ」と嘆いた。
 ベネズエラやアルゼンチンなどブラジルの重要なパートナー国が次々に、批判メディアを抑圧する傾向を強めている。特に亜国では先週末の選挙で与党勢が大敗したこともあり、この判決がどんな影響を及ぼすか注目されている。