ニッケイ新聞 2013年11月5日
米国家安全保障局(NSA)によるブラジルへのスパイ疑惑が問題となって数カ月になる一方で、2003〜04年にかけて大統領護衛局配下の国家情報部(ABIN)がロシア、イラン、イラクの外交官をスパイしていた疑惑が浮上している。4日付フォーリャ紙が報じている。
「ブラジル風諜報活動」(Espionagem a Brasileira)との小見出しが付けられた同記事によれば、ルーラ第1次政権初期に外交的には3国に急接近していたが、同時にその動向も調べ上げていたことが分かった。
同紙が入手したのは、ABINが2003〜04年頃にイラク、ロシア、イランの3国を対象に10種の諜報活動をしていたことを示す書類で、同局関係者もこれが本物だと認めている。
イラクに関しては「カフェ作戦」というスパイ行為が行われており、これによると、イラクからブラジルに派遣されていた外交官をABINが足や車を使って尾行して写真を撮り、大使館や住居での行動まで記録していた。時期としては米国がイラクに対して侵攻を開始したすぐ後のことだ。
またロシアに対しては「ミウシャ作戦」と「グアラニー作戦」を行なっていた。ABINが当時、リオのアナトリ・カシュバ元ロシア総領事をはじめとした3人の外交官の監視を行なっていた。これらの人物はABINから「ロシア側のスパイではないか」との疑いが持たれており、住居まで監視されていた。
当時に行なわれたロシア製武器の購入交渉の交渉現場も写真に撮られ、当時ポルト・アレグレのロシア名誉領事だったブラジル人フェルナンド・ジアヌカ・サンパイオ氏も、ロシア人スパイとの関係を疑われ、ABINから監視されていた。フォーリャ紙の取材に応え、「私は確かにロシアのエージェントだ。ただし、公式な」と皮肉を込めて語った。
イランに対しては「シャー作戦」を行い、2004年4月からイラン外交官の監視を行なっていたほか、この当時にブラジルを訪れたイランのキューバ大使セウェド・ダヴォオド・モセニ・サレーヒ氏の尾行も行っていた。
フォーリャ紙はこの2週間で、当時のABINに関わっていた捜査官や職員に取材をし、これらの書類が本物であることを確認した。大統領護衛局もこれを認め、「法律に基いた活動だ」と作戦内容を肯定した。
また、その一方でABINは「エスクリトーリオ」と名付けられた作戦を行っている。それは、ブラジリアの行政区から離れた商店街の一角のビルに米国大使館の名義で借りた部屋が、米国スパイの本部として使われていた疑惑を追うものだ。そこにはラジオ電波やコンピューターの通信機があり、米国大使館関係者が毎日出入りを行なっていたという。
同紙は「米国の諜報活動の緻密さや規模とは、比較にならないぐらい、ABINの活動は控えめ」と評した。同部の主目的がスパイ活動であり、その内容が漏洩したこと自体〃比較にならない〃証拠といえそうだ。